第86話 リリィさんのパパ


「私に一番優しかったパパはいなくなってしまったの……もう、会えなくなったの……もう……嫌なの……優しくされると思い出すの……パパの事。

それで、優しくされると、また、いなくなっちゃうんだろうなって考えてるの……私に優しくしてくれる人はいなくなっちゃうのかなって、それが怖いから、あんまり優しくしないで」


そういうことか、彼女は前にも同じように優しくしないでって、言ってたな。その時は冗談めかしてたけど、実はそういうところなのか……その気持ちは俺も、俺にも理解できる。だって、昔々、俺も同じようだったから。


「リリィさん、俺ね。リリィさんとおんなじなんだ。俺はリリィさんと同じくらいの頃、5年生の頃ね、母さんがいなくなっちゃったんだ。その時にね、俺は、思ったんだ。それまで、幸せって思っていたけど、もしかしたら、幸せって思わなかったら、こんな事にならなかったんじゃないか。ってね。でもね、それも違うみたいだよ。それは、誰のせいでもなかったんだ。俺のせいでも無かった。そう今は思うようにしている。リリィさんもそのうちそう思えるようになるよ。そう思わなくちゃいけないんだと思うよ」


「そうなの? そうなんだ……佐藤君もお母さんがいないの……」


涙を拭きながら、俺のデリケートな部分を少し披露したら、リリィさんはかえって驚いて俺を見つめている。


「お父さんも消えちゃったよ。ははは」


俺は、笑い飛ばせるだけの時間があったけど、彼女には、まだまだついさっきの出来事なのだろう。彼女の気持ちに寄り添う事が出来ればいいんだが……俺はそうなりたいと強く願った。


せっかく知り合えたのだから、せっかく仲良くなれたのだから……


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