第77話 オーナー驚愕

外はすっかり暗くなっているが蒸し暑く真夏の夜の典型で、港を吹く、そよ風はその蒸し暑さを一瞬だけ、忘れさせてくれる。

花火大会は10,000発の花火が打ち上げられ、それを目当てに80万人の人出がある一大イベントだ。その大会の特別協賛枠にウチのグループ席はあった。


港の真正面、ほぼ、遮るものの無いアリーナ席だ。そして、そこに用意された椅子に座りお酒などを飲みながら2時間の真夏の夜の花火ショーを堪能する。キャストの慰労会も兼ねたグループの夏のイベントの目玉でもある。


「……健太郎、今日は随分な美人さんをご招待したね」


オーナーが一人一人挨拶がてら席をまわって、俺の隣でピンクの浴衣に栗色の髪の毛を頭の上でまとめたリリィさんを見て目を細めた。浴衣一式は、ホテルで借りて雅さんが着つけをしてくれた。


「はい、同級生のリリィさんです」


「……ど、……」


オーナーわかりますよ、その気持ち。ビール片手に飲みながら立っていたオーナーが何処からかビールが戻ってきたのかゲホゲホ咳をしだした。


「……びっくりして死ぬかと思ったよ、あぶねぇなあ。ま、健太郎なんかは、真っ先に喜びそうだがな。いやいや、同級生とは、恐れ入ったね。まあ、楽しんでいってね。リリィさん」


「はい、今日はお招きいただいてありがとうございます。とっても、楽しいです」


と言って、席から立って軽くお辞儀をした。


「おいおいおい、なんだ? おい、健太郎、お前、俺を担ごうって腹じゃねえよな? こんなしっかりした小学生がいるのか? さては、このお嬢さんも10年ぶりの小学六年生かなんかだろう?」


「違いますよ、正真正銘の六年生、12歳です」


「じゅ、12歳……はぁ~、俺も引退時だな。なんか、もうわかんなくなってきた」


それもそのはずだ。元々、素体で15,6歳くらいにみえるリリィさんに、ウチの奴らが面白がって、バッチリメークして喜んでいたのだ。もう見た目だけなら二十歳越えだ。おまけに、この大人対応、受け答え、オーナーの目は曇ってませんよ!


オーナーはその後も、驚いたと連発しながら、他のキャストや従業員と歓談して廻っていた。

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