第85話 百九十五人の美少女
朝になり目が覚めると、咲と真菜が朝ご飯にトーストを焼いていた。それとスクランブルエッグにサラダだ。
「ノン、おはよう。昨夜の夢、覚えてる?覚えてないのなら教えてあげる。」
「覚えて無いなあ。どんな夢?」
「百九十五人の美少女から一斉に助けを求められ、困惑してさまよい歩いてる夢だよ。あたしと真菜が間に入ってこれを鎮めたの。この美少女たちは、世界中に産み落とされた命達なの。天の神様の啓示に従い、『N』の所に来た。ノンは、あたしと真菜が特殊な霊力をかけているからなのか、何も答えられなかったと言う訳なの。これからはあたしと真菜が対応するから、ノンは安心して安眠してね。」
「ノンさん、後の事は心配しないで下さい。みんな良い子達なので。わたしと咲さんが面倒見ます。」
「最近、夢を多く見る筈だよ。でも百九十五人の美少女達ってなんだか興味あるね。」
「ノンさん、アヒルの餌になりたいんですか。わたしと咲さんじゃ物足りないとか。」
「真菜、ノンは浮気とかしないから大丈夫だよ。あたしと真菜の事を心から愛しているし。ね、ノン。」
「俺もいい歳だし、浮気なんてしないよ。真菜の焼きもちにも慣れたよ。時間だから俺はタンポポに行くよ。」
俺は家を出てバスに乗りタンポポに向かった。
今日の月曜日は、トラックの助手の仕事がある。途中コンビニに寄り、昼食のおにぎりとお茶を買った。作業所に着くと、メンバーの齋藤さんが缶コーヒーを飲みながらくつろいでいる。
俺は齋藤さんに、自叙伝を読んでもらっていた。太宰治の「人間失格」と重なる思いがあると言われ、この本を貸して貰い、読んでいた。俺は着替え終わると、借りていた本を返した。
今日のトラックのドライバーは職員の大西さんだ。大西さんにもメールで自叙伝を添付して、読んでもらっていた。感想の返信メールを貰い、とても面白かったとの言葉を頂いた。
他人に自叙伝を読んでもらい面白いという言葉を頂くと、書き終えた喜びが湧き上がる。大西さんのアドバイスでネットの小説に投稿する事に決めた。一人でも多くの人に口唇口蓋裂と、精神障害者の苦しみを伝えたいと思ったからだ。
仕事は午後3時半に終わった。
家までの道のりを、三十分かけて歩く。咲は、エミリー達と夕食を共にするので帰りが遅くなると言っていた。一人だと食事を作るのが面倒なのでほか弁で買う事にした。
家に着き、シャワーを浴びて、食事を済ませ「心の方程式」の続きを書き始めた。先ずは、黒猫との出会いからだ。マチルダと名付け、飼い始めの頃は楽しかった。前田とホームレスの炊き出しに行き、翌日桜田教会の食事会に参加した事が、昨日の事の様に思い出す。
原稿用紙二十枚、一気に書き上げた。ここで午後8時になり精神薬を飲んだ。咲はまだ帰って来ない。
虚しい。ここでまた俺の自殺願望が顔を出す。
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