第82話 突然のニュース
それは、突然のニュースだった。
アメリカのワシントンからのライブ映像が世界中に発信された。日曜日の午後2時の事だ。このニュースを事前に知った咲が、真菜を家に呼び三人でテレビの前に座った。十二使徒をはじめ「TEAM JAPAN」にもニュースを見る様に伝えた。
時間になり会見が始まった。
一人の少女を強面の男達が囲む様に登場した。年齢は十三歳くらいだろうか。女優のナタリーポートマンが演じた映画「レオン」のマチルダにそっくりだ。会見が始まる。
「皆さん初めまして。エミリーと申します。先ずお断りしておきたいのですが、私は日本語と英語が話せます。私のターゲットである人物が日本語しか分からないので、今日の会見は全て日本語でお話しします。副音声で各国の言語でお伝えします。
それでは私の生い立ちからお話しします。生まれはニューヨークの貧しいスラム街に、白い雑種猫として誕生しました。産みの母猫は、私を産んですぐに車にはねられ死にました。父猫は行方不明です。
生まれつき、人間の心の声が聴こえ理解出来る私は、必死に愛の有る人間を探し求めました。そして四十七歳のトムと出会いました。トムは統合失調症という精神疾患を持ち、仕事が出来ません。生活保護を受給して細々と暮らしていました。
愛情に飢えているトムの癒しになれたらと思い、死を覚悟してトムに拾われました。抵抗をする術を知らない産まれたての私を、トムは愛情一杯にミルクを作ってくれました。
ある日、私は天の神様から啓示を受けました。それは人間の女の子になれるという霊力です。トムと暮らし始めて5か月が経っていました。人間の歳でいうと十三歳くらいでしょうか。
人間になった私を『エミリー』と名づけ、自分が食べるのも精一杯なのに、ご飯を分けて食べさせてくれました。トムはいつも奇跡を信じています。愛と言う奇跡をトムは信じています。
寝る前に私は雑種猫に戻ります。天の神様に祈りを捧げ、啓示を受ける為です。トムは猫になる私を『ホワイト』と呼びました。
ある日トムは私をカジノに誘いました。子供の私はカジノのお店に入れません。心の声を使いバカラで大儲けをしようとトムは誘います。私は家からでも、心の声を使える事をトムに伝えました。それとトムの目を通して透視が出来る事も付け加えました。
カジノに行くトムの軍資金は日本円で一万円でした。それが一晩で百万円になりました。トムは大喜びです。それから毎日カジノに通う様になります。稼ぐ日は一千万円勝ちました。VIPの仲間入りだとトムははしゃいでいます。
私は心を鬼にして、カジノで稼いだ全額を恵まれない子供達の為に、寄付をする事を勧めました。それが嫌なら、家を出て行くと告げました。トムは渋々私の提案を受け入れます。
約一億円の大金がありました。寄付をするとマスコミの記事となり、テレビのニュースにもなりました。すでに言いましたがトムは障害があり働けません。こんなに苦しい事は無いのです。トムには結婚歴も無く、親、兄弟もいません。トムには私しかいないのです。
カジノで勝った秘密をトムはマスコミに話してしまいました。そして今回に繋がる大騒動になったのです。全ての人間の心が聴こえる私は今、CIAの管理下に有ります。トムは精神病院の隔離室に入れられていると聞きます。トムに会いたいのです。
私が公の場に出る覚悟が決まったのは、先日の日本からのニュースです。「心の声が聴こえる美少女達」を見て衝撃を受けました。天の神様の啓示を毎日受けている私は、一つの国に一つ、私と同じ様な動物として生まれ、人間になれる霊力を持つ命が生まれていると聞きました。
その心の声を使える女子が、日本には大勢いると言う事を聴き驚きを隠せません。誰かが霊力を拡散しているのでしょう。そしてポセイドンと呼ばれているゲームの存在です。
『N』と呼ばれている人物と接触出来ると、永遠が手に入ると言う事。それには『心の方程式』を解き、真実の愛をオンリーパートナーと結ぶ事。私のターゲットと呼んでいる人物こそ、まだ見ぬ『N』なのです。
私には戸籍が無いのでパスポートを作れず、海外に行く事は現状困難です。『N』どうか私に会いにアメリカまで来て下さい。そしてポセイドンを完成して人類に永遠の愛を授けましょう。
本日は、初めての会見ですのでこの辺で終了します。新しい動きが有れば再度会見を開き、皆さんに報告していきます。ありがとうございました。」
質疑応答の無い一方的な会見だった。
咲と真菜はエミリーの処遇を心配していた。心の声を聴かれると困る権力者は大勢いるだろう。
翌日の新聞の一面は「雑種猫、人間になる」「心の声を聴く美少女」との記事で埋め尽くされた。
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