第79話 富士ハイでのリフレッシュ

 4月3日になり、俺は五十四回目の誕生日を迎えた。


 午前7時に真菜と駅で待ち合わせた。咲を連れ、駅に着くと真菜がすでに待っていた。まだ少し肌寒いが、晴天で気持ちの良い朝だ。駅から富士急ハイランド行の高速バスが出ている。その高速バスに乗り二時間かけて富士急ハイランドに着く。


 咲と真菜は初めて来るらしい。

 俺は何度か来た事があるが十数年振りだ。


 平日の火曜日という事もあり、かなり空いている。俺達はまず、「ド・ドドンパ」から攻めた。30分待ちで乗り込んだ。約2秒弱で百八十キロに達するというモンスターマシンだ。俺も久しぶりの絶叫マシン搭乗という事でかなり緊張した。


 それはあっという間の出来事だった。スタート直後、もの凄いGがかかり息が出来なくなった。そしてゴール到着。よくこんなモノを作ると感心してしまう。


 これで咲と真菜のスイッチが入った。「ええじゃないか」「フジヤマ」「高飛車」「テンテコマイ」「鉄骨番長」と立て続けに攻略して昼ごはんの時間になった。


 フード・スタジアムで富士宮やきそばを三人揃って注文した。

 咲も真菜も次に何に乗るか話している。そして後半戦。「トンデミーナ」から始まり、「ナガシマスカ」「マッド・マウス」「レッド・タワー」「パニック・ロック」「クールジャッパーン」と気づくと絶叫マシンを全て網羅していた。


「富士飛行社」でクールダウンして、最後に「シャイニング・フラワー」という大観覧車に乗り、俺の誕生日祝いが終了となった。しかし、「まだ終わって無いよ」

と咲。家に帰ったら何かプレゼントをくれるらしい。


 富士急ハイランドを後にすると咲も真菜も名残惜しそうだ。次は泊まりで来て、ふじやま温泉に入りたいと真菜が言うので了承した。


 俺達三人が地元の駅に戻ると、時間は午後7時を少し過ぎたところだ。駅ビルの地下の食品売り場で、焼き鳥とお寿司などを買い、俺の家で乾杯する事になった。


 家に着くと三人ともシャワーを浴びて食事会となる。去年の俺の誕生日は、咲が一人でお祝いをしてくれた。プレゼントは、このあたしだと咲が言っていたのを思い出していた。


 今年は何が出てくるのか楽しみだ。乾杯の前にプレゼントを渡したいと咲。手には何やら紙を持っている。真菜も同じ様な紙を手に持っている。それは「婚姻届」だった。「お願いします。書いて下さい。」と真菜。エイプリルフールは一昨日だし、咲と真菜は真剣な顔をしている。


「これは書けないよ。重婚になるでしょ。書くとしても、咲か真菜のどちらか1人だよ。」


「アハハ!ノン、よく言った。ノンの気持ちを確かめたかったんだ。冗談だから忘れて。」


 赤ワインをあけて、改めて俺の誕生日会になった。今日の富士急ハイランドは楽しかった。咲は、霊力を授けた女子が富士急ハイランドに居るか探したが、一人もいなかったと肩を落とした。真菜も同様で、どうすればもっと効率良く、霊力を浸透させられるか悩んでいる様だ。


「なあ咲、真菜、今のままで良いんじゃないかな。ただ闇雲に女子達に霊力を授けても混乱するだけで、せっかく心の声を使えても悪用する人も出てくるだろうし。一人一人丁寧に霊力を授けている今のやり方の方が安心って言うか、俺は好感が持てるな。」

 

「ノンさん、わたし怖いんです。自分から志願してサクラになり、他人に霊力を授けられる様になれたのに、いまだにそれを使えないでいます。人間て、他人の心まで聞こえなくて良いんじゃ無いかって考えたり。その反面もっと霊力を広め嘘の無い世界にしたいって考えたりして。その点、咲さんは心がブレない。凄いって思います。」

 

「あたしは、生まれが野良猫だからね。どんな事にも『こだわらない事にこだわる』で取り組んで行きたい。『TEAM JAPAN』もアメーバの様に自由に形を変え世界中に愛を広めたい。ありのままで良いって。それが天の神様のお告げだよ。ノンに拾われたのは運命なんだよ。」

 

「真菜が霊力を持つのに、恐怖を感じているとは思わなかった。先ずはその恐怖に打ち勝たないといけないね。咲からアドバイスは無いの?」

 

「真菜は経験がまだ少ないからね。特に知識は常に必要だね。それを求め続ける事。もうこれで十分だって思い、求める事を辞めると自らの無能を宣言して、堕落し、錆びついて行く事になる。魂は向上するか堕落するかのどちらかで、同じ位置にはいられないの。人間は永遠に休む事の無い旅人だから。」

 

「咲さんの言う通り、わたしには大切な経験が少ないのです。わたしの行う行為を見て『なるほど、神のメッセンジャーであり、霊界からの朗報の運搬人である』と認めてもらえるようになりたいのです。」


 真菜はどんな時にも絶対に愚痴や弱音は吐かない子だ。俺と咲は真菜の話に耳を傾け、気のすむまで聞き役に徹した。


 寝る前の精神薬を飲み、一息入れた。


 婚姻届を出された時は正直驚いたが、咲と真菜は何を考えているのだろう。食事を済ませ、後片付けが終わり、真菜は俺の家に泊まると言う。


 マチルダとサクラがベッドに潜り込み、俺を迎え入れてくれる。富士急ハイランドでは真菜がスマホでやたらと写メを撮っていた。俺の携帯の待ち受けが、俺を真ん中に咲と真菜を両脇に抱き抱えて満面の笑顔で写っているモノに変わった。


 こうして俺の五十四歳の誕生日がハッピーエンドとなった。

 2匹の猫を両脇に抱え目を閉じるとすぐに深い眠りについた。

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