第63話 マチルダの秘密

「ノンは全世界で幾つ国があるか知ってるの?」

 

「百九十六ヵ国だっけ。二百ヵ国くらいだよね。それがどうしたの?」

 

「昨夜、ノンと真菜が一つになった時、天の神様からお告げがあったの。全ての国に一つ一つの命を授けるって。マチルダの歩んだ道を手本にさせるって。マチルダの秘密も解除してくれるって。だからもう怯えて生きなくて良いの。ノンのお蔭だよ、ありがとう。」

 

「マチルダの秘密って何ですか?」

 

「あたしは元々生まれが黒猫なの。運よくノンに拾われて大切に育てられたの。人間の心の声が生まれつき分かるあたしは、天の神様の啓示を受け人間になる霊力を授けられた。全人類に真実の愛を広める為に活動を始めたの。その第一号が真菜なの。


『TEAM JAPAN』の活動を得て、十二使徒が結成された。日本の行く末はあたし達に委ねられたの。マチルダという名も咲という名もノンがつけてくれた。JAPANと言う名もポセイドンという名もノンがつけてくれた。あたしがノンにしてあげられる事は咲の身体を抱かせてあげる事くらいなの。


 マチルダで無いと天の神様の啓示を受けられないあたしは、毎日怯えて生きてきた。マチルダの秘密がノン以外の人間に知れたら二度と咲になれないと啓示を受けていたから。それが昨夜解除された。


 それでもマチルダで無いと啓示を受けられないの。あたしが何故黒猫で産まれたか分かる?それは人間に愛が有るか試す為だよ。抵抗をする術を知らない産まれたての黒猫のあたしを、ノンは愛情一杯にミルクをこしらえてくれた。人間になった時も、咲と名づけご飯を食べさせてくれた。


 あたしはノンに愛を教えてもらった。みつくちの障害と精神障害は残念だけどノンが自分自身で克服するしか無い。でもあたしはノンから離れない。愛しているから死んでも離れない。良いよねノン。」

 

「それじゃあ昨日のマチルダちゃんは咲さんだったんですか?どうりで違和感があると思いました。もう怖いモノは無いんですね!全てを含めわたしは咲さんとノンさんについて行きます。」

 

「でも全ての国に命を授けるってどういう形で授けるの?」


「その国によって違うと思うの。考えられるのは、犬、猫、ウサギ、羊、馬、辺りかな。そして全てがメスだって言う事が特徴だね。男はすぐに武力を行使するから除外するみたいだね。ノンみたいに愛情のある人間ばかりじゃ無いからね。貧しい国の貧しい人間に拾われたら食べられちゃう可能性もあるし。全てが運任せだね。真菜、オレンジジュース頼む?」

 

「頼みます。咲さん三杯目ですけど大丈夫ですか?わたしは高校が冬休みなのでノンさんの家に泊まっても良いですか?咲さん良いですよね。」

 

「真菜はもう大人の女なんだから良いよ。あたしは帰ったらマチルダに戻るから、ノンに腕枕でもしてもらって寝な。」

 

 三人はハイペースで飲んで食べた。最後の〆にカルビクッパのハーフを三つ頼んだ。咲の告白は俺には衝撃的だったが、真菜が冷静に反応していたのが救いだった。お会計を済ませ焼肉店を出た。


俺はある事に気が付いた。八時の精神薬を飲んでない。時間は午後九時を回ったところだ。慌ててコンビニでペットボトルの水を買い精神薬を飲んだ。


 帰りはバスでなく電車を使った。家に着くと咲はマチルダに戻った。真菜はコートを脱ぎ、そのままベッドに倒れ込んだ。マチルダはベッドに潜り込み真菜に甘えている。


 俺は仕方がないので革ジャンを着たままソファーで寝る事にした。

 目を閉じると直ぐに眠りについた。

 

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