第27話 弱者のよりどころ

 リーストコイン献金と言うのを俺は、教会に通うようになり初めて知った。


 世界平和の為に、たくさんのお金を集める事より全ての人が無理なく、その国で一番小さい貨幣を祈りを込めて献げましょうと始められたそうだ。


 今年は、三月三日が世界祈祷日らしく俺と咲も一円ずつこの献金に参加した。

 

 この日、礼拝が終わる間際に一人の汚い服を着た二十代らしき若者が参加して来た。明らかに食事目当てだ。


 伝道師の鈴木さんがこの若い男の行いに待ったをかけた。先週も遅れて来て食事だけして帰ったらしく、きちんと礼拝に参加しないと駄目だと叱り始めた。それに対して牧師の藤原さんは食事をして帰りなさいと言った。


 俺は難しい選択だと思った。


 食べさせたら若者は世の中を甘く見てしまうだろう。逆に食べさせなければ教会を逆恨みして、キリスト教を全否定するだろう。若者はふて腐れ、帰ると言い出口に向かった。


 女性信者が食事をして帰る様に促すが逆ギレした若者は「こんな所、二度と来るか!」と捨て台詞を吐き出て行った。


 俺なら伝道師の鈴木さんと同じ行動をとるだろう。ただでさえ参加者達は献身にお金を入れないのだ。俺の教会初参加の時、前田がお金を入れるなと言っていたくらい、無料で食事が食べられると広まっているのだ。


 その俺の考えに咲が待ったをかけた。

「ノン、キリストの説く無償の愛ってどう思う?明らかにあの男の人は愛に飢えているわ。あたしなら食事をさせて話を聞くよ。誰からも愛されず、必要とされない事ほど辛く苦しいものは無い。本来教会とはそんな人たちの拠り所にならなければいけないはず。日本の自殺者が多いはずだよ。ノンもあたしもそろそろ働かないといけない様ね。」

 咲はキッと顔を引き締め目を光らせた。


 食事会になると咲の顔がほころんだ。今日のメニューは、ペンネのゴマ油炒め、マカロニサラダ、大根の柚子漬け、ゆで玉子、ふかしジャガイモだ。そして具沢山の味噌汁が出る。


 咲が食べきれないと言うので、他の参加者に分けるように言った。 


毎回揚げ物が無い。とてもヘルシーで咲も気に入ったようだ。食事の後、寄付された服をくれると言うが、今日は参加せず帰る事にした。

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