55センチ目「男の意地」

 ゴンタは相手に触れることすらままならず、攻撃を見切ることで精一杯のようだ。


「さっきまでの威勢はどうしたの? 全然攻撃できてないわよ?」


 サリーはにやにやしながら、ゴンタに語りかける。鋭い蹴り脚がゴンタを狙い、その度にゴンタは少しずつ後退していく。


「くそっ……!」


「ゴンタ! 突破口が見つかるまで無理しちゃダメ!」


「でも、このままじゃやられる一方だぜ……!」


 春菜は悔しそうに唇を噛んだ。サリーの電撃エレクトロ戦法の攻略法がなかなか見つからず、ゴンタ共々やきもきしているようだった。


 そのとき、戦いを眺めていた浪吉はむくりと起き上がると、両の膝をぱんと叩いた。


「俺があいつの身動きを止める。その間に攻撃せぇ」


 浪吉はふらつきながらもなんとか立ち上がる。

 そんな浪吉の腕を、亮助はつかんで引き留めた。


「待て、浪吉! さっき散々やられたのに、これ以上あんなビリビリもろに食ろたら、ただじゃ済まへんで!」


「でも、それ以外にここを突破する方法はない。せやろ?」


「浪吉……」


 浪吉は不敵な笑みを浮かべながら亮助を見据えた。亮助は首を大きく振ると、自分の頬を両手でぱんと叩いた。


「一人の男が覚悟決めたんや。見届けてやらないで、どないすんねん!」


「サンキュー、亮助! ほな行くで!」


 浪吉は腰を少し落とし、両腕を顔の前でクロスしてガードしながら、サリー目掛けて突撃していった。

 雷華はその光景を見て、くすくすと笑う。


「捨て身の特攻ってわけ? エレガントじゃないけど、そういうのも嫌いじゃないわよ! 触手テンタクル!」


 サリーの手から生えたムチが電撃をまとい、浪吉の体を幾度も打ちつける。浪吉はムチに当たるたびに悶絶しながら、それでも前進していく。


「男の意地、見せたらんかい! 波動ウェイブ!」


「うおおおッ!」


 浪吉は振動する両腕を使ってムチを跳ね返しながら、サリーに接近した。

 その気配を察したゴンタは、苦痛に顔を歪めつつ、サリーの蹴り足を右脇でつかんだ。


「ぐぎぎ……! いけ、浪吉!」


「おおきに!」


「何を……!」


「何って、これしかないやろうが!」


 浪吉は背後に回り込むと、サリーを両腕で羽交い締めにした。

 サリーがまとう電撃が肌を伝わり、浪吉の全身を包み込む。それでも、浪吉はその手を決して離さなかった。


「やれ! ゴンタ!」


「浪吉……!」


「俺たちはアホやから、こういうやり方しかできひんねん! 長くは持たん! はようせえ!」


 ジタバタと暴れるサリーを押さえつけながら、浪吉はゴンタに呼びかけた。

 ゴンタはこくりとうなずくと、足を広げて腰を落とし、右のガントレットを後ろに大きく引いた。


「浪吉の覚悟、受け取りな!」


「私が……私がこんな格好悪い戦法にやられるなんて……!」


「覚えとけ! 本当に格好いいやつは、そんな風に格好つけないんだよ!」


 ゴンタはそう叫ぶと、右拳を全力で振り抜いた。サリーの腹部にある留魂石が粉々に砕け散る。


「ああっ!」


「サリー!」


 その光景を見た雷華は、慌ててサリーの下へ駆け寄って、抱きかかえた。


「お姉さま……やられてしまいました、ごめんなさい」


「ううん、いいのよ……あなたはよく頑張ったわ……」


「これからもずっと一緒にいてくれますか、お姉さま?」


「もちろんよ、サリー」


「ああ、良かった……これで安心して逝けます……」


「サリー……!」


 雷華は透けていくサリーを強く抱きしめた。


 一方、それを眺めていた浪吉の体も、少しずつ透明になっていく。亮助はそれを見て、目を丸くした。


「おっと、俺もそろそろ引き際やな」


「浪吉……お前……」


「すまんな、亮助。俺の石、ビリビリに耐えられへんかったみたいや」


 浪吉はTシャツの裾をめくった。そこには、ひび割れた留魂石がはまっていた。


「謝るこたないで。お前が本当にやりたかったことなんやろ?」


「ああ。いっときとはいえ、王城竜馬に加担してしもうたからな。これで、せめてもの罪滅ぼしになったやろ」


「きっちり筋を通したんや。胸張っていけや」


 亮助は浪吉の胸に拳を突き当てた。


「せやな……亮助、元気でやれよ」


「言われんでも、そうするわ!」


 亮助は笑顔で浪吉を見送った。浪吉もまた、笑顔で消え去っていった。


 後に残った青いサーフボードを抱えると、亮助は春菜たちに向き直った。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「後は任せたで、春菜ちゃん、ゴンタ。俺たちの分まで頼むわ」


 春菜とゴンタはこくりとうなずいた。


「みなさん、行きましょう。王城竜馬を止めに」


 翔太ペアは俊彦ペアが立ち上がるのに手を貸した。それから六人揃い踏みで、階段へと向かっていった。

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