54センチ目「“女王”獅堂雷華」

◆◆◆


 春菜たちは、はぐれたくうたちと合流するために先を急いでいた。


 未羽のトラップによって地下へ落とされた後、上階に上る階段を見つけるのに手間取って、結構な時間が経ってしまっていた。


 もしかしたら、すでに王城龍馬おうじょうりゅうまのところまでたどり着いた者がいるかもしれない。そう考えると、あまりうかうかしてはいられなかった。


 春菜たちは突入した地点とは真逆の、東側のフロアへ到着した。廃墟のようなその大部屋を、春菜たちは駆け抜けていく。


 そうして進むことしばし、やがて見えてきた光景に、春菜たちは愕然とした。


 そこには、地面に力なく倒れ伏す亮助たち四名の姿があった。


「あら、また新しい獲物が来たみたいね」


 浪吉なみきちの背中をハイヒールのかかとでえぐるように踏みつけながら、雷華は楽しそうに笑った。


「浪吉!」


 全身ボロボロだが、幸いなことにまだ留魂石は砕かれていないようだ。

 ゴンタとマッキーは、彼を救うため雷華に向かっていく。


「サリー、やっちゃって」


「はぁい、お姉様」


 隣に立っているボンテージの少女は、にこやかに迎撃の態勢を取った。


触手テンタクル


 サリーの手のひらから太く長いムチが出現し、うなりを上げてゴンタたちを打ちつける。


「ちぃっ……触手テンタクル!」


 マッキーの手のひらから伸びたネクタイがそれを絡めとる。しかし、サリーは笑みを崩さない。


油装オイル


 ムチは拘束をぬるりとすり抜け、再びゴンタとマッキーの体を叩いた。


「ええい、うっとうしい! 春菜!」


武装アムド!」


 春菜がスキルを唱えると、痺れを切らしたゴンタは被弾を覚悟で前進していく。

 雷華とサリーはにやにやといやらしい笑みを浮かべながら、その光景を眺めた。


「なかなか骨があるじゃない。いいわ、仲間はあげる! 受け取りなさい!」


 サリーはムチを使って亮助と浪吉を宙高く放り投げた。

 ゴンタは亮助を腕でキャッチし、マッキーは触手のネクタイを使って浪吉を捕らえる。


 その間に、サリーは無防備な春菜と翔太をムチで絡めとり、締め上げた。


「きゃあっ!」


「ぐっ……!」


「おい、お前! 卑怯だぞ!」


 怒声を発するマッキーにも、サリーは笑みを崩さない。


「あら? ツクモは持ち主を攻撃しちゃいけないなんてルール、あったかしら?」


「ないに決まってるじゃない、サリー。あなたはやりたいようにやっていいのよ」


 愉悦に浸りながら、サリーはくすくすと声を出して笑った。

 ゴンタは怒りに震えながら、サリーを見据える。


「よくも春菜を……絶対に許さねぇ……!」


 ゴンタは気絶している亮助を近くの壁際に下ろすと、サリーに近づいていく。


「あら、そんなに歩いていいのかしら? 近づけば近づくほど、締め上げるわよ?」


「近づかなきゃ、お前をぶっ飛ばせねぇだろうが……!」


 春菜を傷つけられた怒りに、ゴンタの感情は爆発しそうなほど高まっていく。


 そのとき、春菜が手に持っている神スマホが眩く光り輝いた。

 春菜は声を絞り出すようにそのスキル名を叫ぶ。


刀化カッター……!」


 ゴンタのガントレットから三本の鉄爪が伸びる。

 振るわれたゴンタの手は、サリーの両手から伸びるムチを軽く切断した。


 サリーは驚きに目を見張った。


「やるじゃない! 楽しくなってきたわ! お姉さま、お願い!」


武装アムド!」


 サリーはハイヒールを脱いで放り捨てた。脚全体が、黒く硬い材質へと変化していく。

 振り下ろされたゴンタの爪を、サリーは脛で受け止めた。


 激しく打ち合うゴンタとサリー。

 その間に、翔太とマッキーはおたまペアの下へ駆け寄った。


「二人とも、大丈夫か!?」


「ええ、なんとかね……」


 おたまは気絶した俊彦に膝枕をしながら、壁に寄りかかっていた。

 戦うゴンタとサリーを見ながら、おたまはつぶやく。


「気をつけて、あいつらはまだ本領を発揮してない」


「なんだって?」


 ただでさえ強いあのペアに、まだ次の段階があると知った翔太は絶句した。


 サリーはゴンタの爪を蹴り上げて跳ね返すと、後ろに向かって叫ぶ。


「ノってきたわ、お姉さま! あれ、ちょうだい!」


「そうね、そろそろいいかもしれないわね」


 雷華はふっと笑うと、スキルを唱えた。


電撃エレクトロ!」


 サリーの全身をバリバリと電撃が包む。

 ガードの上から蹴り飛ばされたゴンタは、伝わってきた電気の威力にうめいた。


「ここからが本番よ! せいぜい歯を食いしばって耐えなさい!」


 サリーの体に触れた瞬間、電撃が襲い掛かる。ゴンタは攻撃を捨てて回避に専念したが、全てを避けきることは難しい。サリーの蹴りが体をかするたびにゴンタはうめいた。


 もはや打つ手はないのか。春菜たちの間に絶望感が漂い始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る