31センチ目「暴食の化身」
春菜とゴンタは一通り買い物を終えると、スイーツ食べ放題の店へやってきた。嫌なことがあった後には、食べるのが一番だ。
「さあ、食べよ食べよ!」
「なあ、ハルナ……お前、この前『こんな体型じゃ海に行けない! ダイエットしなきゃ!』って言ってなかったか……?」
「何のことかな?」
食らいついたショートケーキを飲み込み、鼻頭にクリームをつけたまま喋る春菜に、ゴンタは深いため息をついた。
春菜は皿の上に盛った色とりどりのケーキたちをパクパクと平らげていく。ゴンタはそれを呆れ顔で見つめながら、チョコケーキの切れ端を口に運んだ。
「
「そりゃそうだろ。オレ、取ってくるよ」
「ううん、いいよ。自分で取ってくる。ゴンタはおかわりいる?」
「ああ、じゃあ頼んだ」
春菜はコップを両手に持って立ち上がると、飲み物コーナーへと足を運んだ。
夏休みだからか、店内はかなり混み合っていて歩きにくい。
「ママ、それも取って」
「はいはい、これね」
通りがけ、横に立っていた別の客のお尻がぶつかって、春菜は少しよろけた。
「あら、すいません」
「いえ、大丈夫です」
笑顔で軽く会釈した春菜は、相手の顔を確認した瞬間、顔色を変えた。
「あっ」
そこには、見覚えのある笑顔でこちらを見る、赤いワンピースの女性がいた。
春菜は慌てて自分の席に駆け寄ると、神スマホを手に取って避人円を素早く起動した。
「ここで会ったが百年目! 今度こそ逃がさない! ゴンタ、構えて!」
「おう!」
「ちっ、こうなったら仕方ない! やるよ
「うん、ママ!」
一触即発の近距離でにらみあう春菜たち。お互いの出方を伺う中、ツクモたちのスキルを発動するタイミングは、自ずから同時となった。
「
「
収蔵と呼ばれた小太りの少年は、口から巨大な唾液の塊を発射した。ゴンタはそれを横に飛び退いて避ける。
着弾した唾液は、ゴンタの背後にあったテーブルをドロドロに溶かしてしまった。
「うげぇ、汚ねえ!」
「相手の顔の向きに気をつけて、ゴンタ!」
「ああ、分かった!」
ゴンタはフェイントを織り交ぜながら、相手が向いている方向に立たないよう左右にステップする。
それを見た女性は、不敵な笑みとともに叫んだ。
「収蔵! 毒吹き行くよ!」
「オッケー、ママ!」
「
「ぶぅーっ!」
収蔵は口をすぼめると、霧状に唾を吹きつけながらぐるりと首を回した。
ゴンタはとっさに両腕で顔を覆う。すると、唾に当たった手甲の表面が溶け始めた。危険を察知したゴンタは慌てて武装状態を解除した。
「大丈夫、ゴンタ!?」
「ああ、なんとかな。全く、不潔な攻撃ばっかりしやがって!」
「汚い手段を使っても、勝てればいいんだよ!」
「くそっ、言い返せないのが悔しい……!」
唇を噛みながら、ゴンタはバックステップで距離を取った。
「これじゃ攻撃できない……どうするハルナ?」
「ど、どうしよう」
春菜は打開策が何も思いつかず、頭を抱え込んだ。それを機と見た女性は、上機嫌でにやけた。
「来ないならこっちから行くよ!
女性がスキルを唱えると、収蔵は口を大きく開いて近くの椅子に噛みついた。でたらめな方向に飛びかかった収蔵を見て、ゴンタは笑った。
「どうした! 全然的外れだぜ!」
「いいんだよ、これで!
女性がさらにスキルを発動した。収蔵は口の中に含んだ椅子の破片をバリバリと噛み砕くと、ゴンタ目掛けて吹き出した。唾液をまとったプラスチックの破片が散弾のように飛来し、ゴンタの体に直撃する。
「ぐああっ!」
全身に酸の
「このままやっちゃおうよ、ママ!」
「そうだねぇ、収蔵。終わったら、その小娘の悔しがる顔を見ながらゆっくりスイーツを食べようじゃないか」
「いいね、それ!」
このままではゴンタがやられる。それなのに、私はまだ何もゴンタの助けになれていない。
そしてゴンタもまた、敵に対して有効打を与えられていないことに焦っているようだった。
もっと力が欲しい。どんな攻撃でも防ぐことができる力が。
そう思った瞬間、春菜が手に持っている神スマホが眩い光を放って振動した。
春菜は前に一度この光景を見たから、もう知っている。新たなスキルが追加されたのだ。
「お願い! ゴンタに力を貸して!
春菜がわらにも
三日月をモチーフにした、円形の丸みを帯びた盾だ。
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