66話 クリスマスプレゼントの用意だ!

 面接の結果も気になるが、ここ数日の俺はまた別のことでも悩んでいた。


 今月はクリスマスがある。

 五十鈴にどんなクリスマスプレゼントを渡せばいいのかわからない。


 彼女の家の調度品やアイテムを見れば、どれも高いものを使っているのは明らか。下手なものは渡せない。


 とはいえ、俺のお小遣いで買えるものは限られている。五十鈴にがっかりされないようにするためにはどうすれば……。


「カップルならネックレスとか指輪を渡すところなんだけど」


 その日の夜、俺は台所で母さんに相談していた。


「もう五十鈴からもらっちまった……」


 俺は首にかけているペンダントを触る。


「指輪って重くないか?」

「結婚指輪じゃなきゃそこまででもないでしょ。街中見ればつけてる高校生のカップルもいるよ」

「そっか……」

「でもあんたは指輪とかつけるの抵抗ありそうだよねえ」


 俺はうなずいた。ペンダントは首元から少し見えているだけ。おかげでつけていられる。だが指輪は完全に外から見えてしまうのだ。今の俺にはハードルが高い。


「五十鈴ちゃんを見た感じ、なにもらっても喜びそうだけどね」

「それじゃ駄目だ。五十鈴に甘えることになる」

「じゃあ頑張って考えなきゃ」

「うーむ……」

「五十鈴ちゃんとのこれまでを振り返るんだよ。彼女になにが必要なのかっていう角度から攻めるのがいいね」

「五十鈴に必要なもの……」


 五十鈴はなんでも持っている気がする。イラストを描く道具だってそろえているからあれだけ描けるのだろう。そうなると……。


「あ」

「閃いた?」

「かもしれない」

「クリスマスまでに値段確認できそうなもの?」

「できると思う」

「じゃあ、追加のお小遣い用意しとくからね」

「いいの?」

「もちろん。息子に恥かかせるわけにはいかないからね。しっかり選んできなさい」

「ありがとう、母さん」


     †


「昨日はどこに出かけたんですか?」


 数日後の昼休み。五十鈴に質問された。


「久しぶりに駅前の店を見て回りたくなってな。一人でぶらぶらしてきた」

「わたしも一緒に行きたかったです」

「自分でも知らない店を開拓したかったからさ。次は一緒に行こうな」

「約束ですよ?」


 昨日の俺は、五十鈴に渡すクリスマスプレゼントを探しに行ったのだ。無事に目的のものを発見し、値段も母さんに報告した。五十鈴からしたら高いものではないかもしれないが、きっと喜んでもらえるはずだ。


「ところで、あと半月で今年も終わりですって」

「あっという間だったな。激動の一年だった……」


 俺のつぶやきに、五十鈴が黙る。人生を賭けてきた野球を諦めるというのはあまりに大きな出来事だった。返事をしづらいことだろう。


「でも五十鈴に会えた。悪いことばかりじゃなかったよ」


 五十鈴を見ると、眉が下がっていた。


「なんだか、わたしばっかりいい思いをしているような気持ちになってしまいました」

「そんなこと気にするな。骨折は五十鈴となんの関係もないことだ。お前が落ち込むことなんてないんだ」

「はい……」


 なんだか重たい空気になりかけている。話題を変えよう。


「なあ、クリスマスなんだけどさ」

「あ、そういえばもうすぐですね」

「もしよかったら俺の家に来ないか? 帰りは送っていく」

「先輩の家でパーティーをするということですか?」

「そうだ。なにかと五十鈴の家で世話になってるし、クリスマスは俺が五十鈴を歓迎したい」

「わたしの家に呼ぶつもりでいたんですが……」

「今回は逆にできないかな」


 五十鈴は考え込む。


「別に、変なことはないから安心しろ」

「そういうの、逆に不安になります」

「か、家族もいるし、俺の性格は五十鈴だってわかってるだろ?」

「ええ。信頼しています」


 よし、と五十鈴はうなずいた。


「わかりました。クリスマスイブは先輩の家にお邪魔させていただきます」

「やった。ありがとな」

「こちらこそ、お世話になります」

「ケーキは高いやつを買うつもりだ」

「わたしが持っていってもいいんですよ?」

「いや、ここは招く側が責任を持ってやる」

「ふふっ、気合いが入ってますね。では、全部先輩にお任せしちゃいますよ?」

「オッケーだ」


 こうして、五十鈴とクリスマスイブに夕食をとる約束ができた。

 そこで、サプライズとしてプレゼントを渡すのだ。


「前回は夏でしたか。あの時は先輩のお部屋を見られませんでしたし、次こそは入らせてもらいますね」

「……それは勘弁してもらえないか?」


 と言ったところで聞かない五十鈴だ。当日までに部屋を片づけておこう、と俺は思った。


「甘いクリスマスになるといいですね。それこそケーキのように」


 五十鈴が人差し指で唇をつーっとなぞる。ドキッとした。彼女の妖しげな仕草は、やや童顔なこともあってギャップがすごい。俺を誘惑する新しい技を覚えたのか?


「楽しみにしています」

「き、期待しててくれ」


 内心のドキドキを抑えつつ、俺はなんとか返事をした。

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