Side P 43(Moriyasu Agui) 篁未来による真実
文字化けメールの内容は、あたかもこの世界の詳細を伝えることが、C世界回避の鍵と言わんばかりの出だしだった。
『その前に、2066年の地球の惨状を
白亜紀末期、ユカタン半島近海を直撃し恐竜の絶滅をもたらしたときと、似たような状況が起こっている。そう推察した。しかし、この未来における世界人口がどの程度か分からないが、世界でおそらく8割以上の人が、気候変動により亡くなっている。つくづく人間は、自然の脅威にあまりに無力だ。シェルターに住まう10万人は、言わば世界の『上級国民』であって、安居院守泰も詞音も、そこから除外されたのだろう。
『僕が、シェルターに住むことができた理由は、この際
『ポアンカレくん』が登場し、どうも拍子抜けしてしまうが、文調からおふざけではないことは分かる。
『生前のポアンカレくんの送信メールを勝手ながら拝読したが、ポアンカレくんはあくまで、自分の計算式のミスによる誤ったプログラムで爆破ミサイルを発射し、引責という形で、火星テラフォーミングの実験台に愛娘を送り込むことになったと綴っていた。しかし、考えてみてほしい。いくら何でも、いち研究者の
この世界では、父娘仲が良好だということが判明した。そして、このメールに離婚だのそういう記述がないことから、夫婦仲も継続しているのだろう。
しかし、次に書かれていた内容が、俺の想像からは大きく
『だからこそ、門河詞音を
咎人? 詞音が夭逝したのは、まさか彼女自身に原因があったというのか。C世界では何が起こっているのだ。知りたくないが、知らなくてはならない内容のような気がした。
『単刀直入に言う。この世界において、故・安居院詞音はある罪を犯した』
ある罪と表現するところが、
『安居院詞音は、科学史の英傑、安居院守泰と、街に繰り出せば何十回とスカウトが来るくらいの美貌を誇る閘舞理の娘だ。両親の良いところを集め、増幅し凝縮させたような、誰もが憧れる詞音は、なるべくして有名になった。もちろん科学の道に歩むこともできたが、本人は女優としての道を選んだのだ。しかし、1つだけ致命的な欠点が彼女にはあった。自分の非を認めることができないのだ。天賦の才をふんだんに与えられた安居院詞音は、親からも周囲の大人からもちやほやされた。もちろんやっかみを買ってしまうこともあったが、天才科学者として名を馳せる安居院守泰の娘であることが、彼女を強く、大きく、そして増長させたのだ。才覚を鼻にかけ、後輩女優や芸能関係者を卑下する態度を取ることも多かった』
にわかに信じられなかった。幼少期から顔立ちは著しく整った子であるのは、親バカを差し引いても認められるべき事実だと思う。しかし、4歳頃までの記憶とは言え、
『よって、女優としての地位を
嫌なことが起こると分かっているだけに、続きを読むのがひどく
『彼女が運転する車が人を
え?
『法定速度を超過した運転で、被害者は亡くなってしまった。しかも、もっと悪いことに、安全救護義務を怠り、その場を去ってしまったのだ。そして、被害者というのが、
武蔵紫苑。映画『ハーシェルの愁思』製作を手掛ける新進気鋭の映画監督にして、邨瀬の高校の同級生。その人物を
『一瞬にして罪人になっただけでなく、後ろ楯を失った門河詞音は立ちどころに業界を追い出された。同時に、ポアンカレくんも、長周期彗星の爆破失敗で糾弾されていた。服役を終えても、轢き逃げ犯にして「彗星爆破失敗の張本人の娘」のレッテルが貼られた彼女を、積極的に出演させようという奇特な映画監督もテレビ局も皆無。ひとえに、業界で高慢だったことが
自分の娘だからというか、C世界の俺は、何とも詞音に甘すぎやしないか。仮に仕組まれた事件だとしても、安全救護義務違反なのだ。それだけは、どうあっても擁護できない。
『そんな彼女が、過去の栄光の奪回と父親の汚名返上のため、テラフォーミングへの実験に名乗り出ることになったのだ。
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