「オール監獄」
和真たちは、ヤァスと戦うことを決めた。
その勝算は低く、いくつものチートスキルを身に着けたヤァスを倒せる見込みはまったくない。
負ける可能性が高いことを承知したうえで、それでも、和真たちは戦いを挑む。
それでも、できる限り勝つための方法をとらなければならなかった。
和真たちが挑む戦いは半ば自暴自棄になって行うものと言うことができたが、最初から勝ちを捨てて挑んでいったとしても、それでは、自己満足にしかならない。
ヤァスの目論見を阻止できる、できない、そのどちらになるにしろ、和真たちはヤァスのあの勝ち誇った笑みを崩してやりたかった。
作戦は、影雄とオルソが中心となって練り上げたが、しかし、ヤァスといい勝負をするためにはどうしても戦力が足りそうにないということが分かった。
カルケルの統率の下でプリズントルーパーたちの戦意は高く、和真たちも引き下がるつもりはなかったが、ヤァスはすでにプリズンアイランドの大半を掌中(しょうちゅう)に納めており、その支配下には催眠されたままの大勢のプリズントルーパーたちがいる。
しかも、ヤァスはプリズントルーパーたちの基地を制圧しており、兵器、弾薬も豊富だ。
もっと、味方がいる。
何か、対策を考えなければならなかった。
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やがて、和真たちの司令部となっている取調室に、三人の囚人(チーター)が集められていた。
一人は、クラン[メンダシウム]のリーダー、[ラクーン]。
二人目は、クラン[アイアンブラッド]のリーダー、[プルート]。
三人目は、クラン[アミークス]のリーダー、[鷹峰(たかみね)]。
いずれも、囚人(チーター)たちの間で自然に出来上がったクランのリーダーで、囚人(チーター)たちに大きな影響力を持つメンバーたちだった。
戦力がまったく足りないという状況に対し、作戦を考えていた影雄が出した結論。
それは、チータープリズンに収監(しゅうかん)されている囚人(チーター)たちに協力を要請し、ヤァスとの戦いに参加してもらうというものだった。
だが、その要請がすんなり受け入れられるとは、誰も予想していなかった。
チータープリズンで、囚人(チーター)たちが大きな暴動を起こしてから、まだ一日も経過してはいない。
カルケルの指揮で監獄側は囚人(チーター)たちの暴動を鎮圧し、元の牢獄(ろうごく)に閉じ込め直し、幾人かの、暴動に主体的にかかわった囚人(チーター)たちは独房(どくぼう)と呼ばれる特別な牢獄(ろうごく)へと押し込められていた。
暴動の鎮圧にあたっては、多くの死傷者が出てしまっている。
暴動は終息しても、囚人(チーター)たちと、カルケル以下のプリズントルーパーたちとの間には、大きな溝(みぞ)ができていた。
実際、連行されて来た三人の囚人(チーター)たちは、夜になってから呼びつけられたこともあってか、皆、不機嫌そうだった。
暴動には加わらなかったというラクーンとプルートは無傷に近い状態で、ラクーンなどは涼しげな顔をしているし、プルートは「どうでもいい」とでも言いたげな顔で、イスの上でふんぞり返っている。
積極的に暴動に参加した鷹峰は、プリズントルーパーたちに拘束された際に相当痛めつけられ、独房に閉じ込められていたから、全身に多くの傷跡があり特に不機嫌で、その場にいたカルケルや和真のことを憎悪の視線で睨みつけている。
「さて、諸君。夜分に呼びつけたことだし、時間もないので、単刀直入に行こう。……我々がこれから行う、ヤァスを討伐するための戦いに協力して欲しい」
囚人(チーター)たちに協力を要請するという提案を行った影雄がまず口を開き、三人の囚人(チーター)たちにヤァスのことを説明した。
「ヤァスが最終的に何を目的としているかは分からないが、放っておけばキミたちにも害となる存在だろう。協力してくれるなら、当然、見返りも用意する。どうか、前向きな返答をしてくれ」
「いや、私は反対だ」
頭を下げ、丁寧に頼み込んだ影雄に、まず、ラクーンが反対の言葉をあげる。
「わざわざ自分から厄介ごとに巻き込まれたくはないからな」
「オレも同感だ。……第一、アンタらのゴタゴタなんて、オレたちには関係のないことだろう? 」
続いて、プルートも反対の声をあげる。
「そもそも、その、ヤァスとかいう奴が勝てば、このチータープリズンも何もかもなくなって、僕たちは自由になれるんだろう? どうして、協力する必要があるんだよ? 」
そして最後に、鷹峰が敵意を隠そうともせずにそう言った。
協力要請がすんなり通るとは誰も思っていなかったが、ヤァスが準備を終え、監獄棟へと総攻撃を開始する前に行動を開始したい和真たちには、彼らをゆっくり説得しているような時間はなかった。
「おい、アピス、ちょっと来い」
険しい顔をして説得する方法を考えている影雄の様子を眺めながら、壁によりかかっていたカルケルはそう言ってアピスのことを手招きした。
そして、やってきたアピスにカルケルは何事かを耳打ちし、それにアピスは怪訝(けげん)そうな顔をしたが、カルケルに「いいから行け」とうながされてラクーンのもとへと向かう。
「ラクーン殿。少々、よろしいでしょうか」
そして、アピスがラクーンの耳元に何事かを、おそらくはカルケルからの伝言を耳打ちされると、ラクーンがその態度を豹変(ひょうへん)させた。
「しかたない。我が命により、できるだけ多くの囚人(チーター)を貴公らに協力させよう」
その変わりぶりに誰もが驚いたが、ひとまず、問題が一つ減ったのは事実だった。
ただ一人、すべてを理解しているらしいカルケルは、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらラクーンの方を見ている。
そして、プルートについても、あっさりと協力してもらえることが決まった。
「あら、プルートじゃない。久しぶりね。半年ぶりくらいかしら? 」
それは、三人の囚人(チーター)たちの説得が行われている取調室に、シュタルクが現れたからだった。
彼女は新たに用意された装甲服の調整を行うためにそのあたりを歩いていたのだが、その調整を終えて戻って来たのだった。
「シュタルク! お前、戻ったのか!? 」
「ええ。いろいろあったけど、どうにかね。……ところで、小社管理官からの協力要請、素直に受けてもらえるかしら? 」
シュタルクの姿を見て驚いた表情を見せるプルートに、シュタルクは親しげな様子で近づいていき、彼の目の前に立つ。
「協力してくれたら……、アナタと私、決着をつけてあげるわ! 」
そして、シュタルクが挑発するようにそう言うと、プルートは一度舌打ちし、それから、「いいだろう」と言って、協力することに賛成してくれた。
最後に残ったのは、鷹峰だけだった。
彼は最後まで反抗的で、敵意を隠そうとはしなかった。
それでも、結局は協力することを受け入れてくれた。
小社管理官との間で、刑期の短縮や、チータープリズン内部での特別待遇などについていろいろ条件を取り決め、自分の利益を最大限に引き出すことができたからだった。
こうして、ヤァスに対抗するため、チータープリズンのほぼすべての戦力が集められることとなった。
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