「プリズンシティ」:3
プリズンシティへと向かうバスは、快調に走っていた。
その内部は大勢の囚人(チーター)たちで満員状態であり、和真はつり革につかまって立ち乗りしているような状態だったが、バスは大きく揺れることもなく、乗り心地は悪くなかった。
バスは、和真がチータープリズンへと収監(しゅうかん)されたその日に通った道を、逆に進んでいく。
チータープリズンの厳重な警戒網を車窓に眺めながら長く曲がりくねった坂道をゆっくりと下って行ったバスは、やがてプリズントルーパーの基地の地下を通るトンネルへと入り、一定の速度で走り抜けていく。
乗降の際にプリズンガードたちの厳重なチェックを受けた囚人(チーター)たちを乗せたバスは、いくつも作られた検問所もノンストップだった。
そのバスに乗っているのは、監獄側に従順で協力的な[模範囚]であるのだから、緩められるところは緩めようという考えであるらしい。
トンネルの中は薄暗かったが、そこを抜けると、車内の雰囲気は一気に明るくなった。
単純に車窓から太陽の光が入って来たというだけではなく、周囲にプリズンシティの街並みが広がり、その光景を目にした囚人(チーター)たちの多くが歓声をあげたからだ。
そこは、チータープリズンに収監(しゅうかん)された囚人(チーター)たちにとって、[プリズンアイランドでもっとも自由に近い場所]だった。
チートスキルの発動を抑制するための首輪は装着されたままだったし、外出許可を得ていることを証明するための外出許可証を常に携帯することが義務づけられ、服装も囚人服のままではあった。
それでも、囚人(チーター)たちには手錠もされておらず、プリズンシティ内では監視も緩い。
プリズンシティにいる間、囚人(チーター)たちはそこで自由に動き回り、好きなものを見て、食べて、買うことができる。
守らなければならないルール、設けられた制約などは様々にあったが、そこでは、囚人(チーター)たちは自分で[選ぶ]という権利を与えられるのだ。
自分の生まれ育った街とは違うものだとはいえ、少しでもその面影を感じることができるプリズンシティの街並みを目にして、和真も嬉しかった。
思っていたよりもずっと、嬉しいという気持ちだ。
そこには、厳しい監視の目もなく、プリズンガードたちに目をつけられて、常にあげあしを取られないようにビクビクと怯えながらすごす必要もない。
和真が不安に思っている、(いいように利用されているのではないか)という現実からも、一日だけだが解放されることができる。
同時に、寂(さび)しくもあった。
ここ、チータープリズンに収監(しゅうかん)される前、和真はこんな街で、ありふれた日常を、それがさも当然であるかのように過ごしていたのだ。
そして、当たり前だと思っていたかつての日常は、今の和真にとっては遥か彼方だった。
やがて、バスはプリズンシティのほとんど中心部にある、多くの囚人(チーター)たちの目的地でもあるショッピングモールへと到着した。
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続々とバスから降りていく囚人(チーター)たちに交じって外に出た和真は、まず、他の囚人(チーター)たちから別行動をすることにした。
プリズンシティは監獄内のしがらみから抜け出せる場所であるはずだったが、それでも、[クラン]に所属する囚人(チーター)たちの目になるべくつかないように行動するべきだと思ったからだった。
多くの囚人(チーター)たちがショッピングモールの建物の中へと吸い込まれていくのから離れた和真は、周囲を見回し、ご丁寧なことに囚人(チーター)向けに用意されているらしい街の施設を案内する大きな看板を発見すると、そこで辺りに何があるのかを確認した。
プリズンシティは、チータープリズンのために出来上がった街だった。
そこで働く人々や囚人(チーター)たちのための街なのだから、その大きさの割には異様なほど娯楽施設が充実していて、和真が利用したことのあるようなものはみんなそろっていた。
その中で、和真は[ゲームセンター]という施設を見つけて、すぐにそこに行くことに決めていた。
和真は元々テレビゲームが好きなインドア派の少年だったから、とにかく、ゲームをして遊びたかったのだ。
ゲームセンターは、ショッピングモールに併設されるように作られていた。
中は思ったよりもずっと広く、クレーンキャッチャーなどの定番の遊具をはじめ、2Dの格闘ゲームなど古い名作から、最近発表された最新のものまで、様々な種類のものが配置されていた。
しかも、和真も知っている日本製のゲームも、数多くあった。
独特の雰囲気がただよっている。
エアコンの効いた、少しこもったような感じのする空気。
染みつくようにただようタバコのにおい。
そこに立ち入る者を日常から切り離し、没入感を高めるために、ガンガンに鳴り響く音楽。
和真が普段遊び慣れているのは家庭用ゲーム機やスマホのアプリだったが、以前にも立ちよったことのあるような既視感のあるその場所は、何だかひどく懐(なつ)かしい感じがした。
そこには和真と同じように囚人服に身を包んだ囚人(チーター)たちや、私服姿のプリズントルーパーやプリズンガード、中には街に住む一般の住人らしき人々の姿もあったが、和真はそこではあまり目立たずに済みそうだった。
ゲームセンターの中は照明が調整されていて薄暗く、視界が悪い。
それに、そこで遊んでいる人々はみな目の前のモニターなどに集中していて、和真のことなど見向きもしないからだ。
和真はゲーム機に表示されている料金と、自分の手持ちのグディとを見比べて、ちゃんと遊べるだけの金額を自分が持っていることを確認すると、ゲームセンターの中をまずは一周した。
そこにどんなゲーム機があり、自分が何で遊びたいか、限られた時間の中でできるだけ効率よく遊べるように計画を立てるためだった。
その中で、和真はまず、オモチャの銃を使うシューティングゲームを遊ぶことにした。
ゾンビアポカリプスの世界でプレイヤーたちがゾンビがあふれ出した真実を探り出し、世界を救うために撃ちまくるという、ありふれた設定のものだ。
少し古いゲームで、和真も遊んだことがあるシリーズだった。
まずは、それで肩慣らし。
そう思ったのだ。
和真はマネーカードを機械にセットし、オモチャの銃を手に取ると、ニヤリと不敵な微笑みを浮かべてモニターを見すえ、少し気取ってかまえをとった。
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