「洗礼」:2
やがて、連れ去られていったチーターが、プリズントルーパーたちに抱えられながら戻ってきた。
その姿を見た和真も、囚人(チーター)たちも、言葉を失った。
カルケルの演説を聞いていたほんの数分の間に、そのチーターはズタボロにされていた。
身に着けていた衣服はあちこちが破れ、焦げた跡がついており、そこからのぞく肌には電気が流れた跡なのか、のたうつミミズのようにも見える火傷ができていた。
気を失っているらしいそのチーターは、元々座っていた椅子に乱暴に座らせられると、そのままぐったりと背もたれによりかかった。
息はしているようだったが、とても苦しそうだ。
(こ、ここまで、するのかよ……)
和真は、その惨状を目にして背筋が寒くなるのを覚えていた。
自分は無実で、間違ってここに連れてこられたのだから、真実を解き明かして謝罪させてやるとまで思っていたのだが、とてもそんなことが通じる相手には思えなかった。
「ではァ、これよりィ、貴様らを新しい「家」まで案内するゥ! 担当のプリズントルーパーが一人ずつ貴様らを連行するゥ! せいぜい、監獄生活を楽しむことだなァ! 」
痛めつけられてぐったりしているチーターの姿を見て愉悦に表情を歪めたカルケルがそう言うと、集められた囚人(チーター)たちの連行が始まった。
最前列の左側から順に、プリズントルーパーたちが四人がかりで、一人のチーターを連れ去っていく。
おそらく、これからこの[チータープリズン]で暮らすことになる牢獄(ろうごく)へと連れていかれるのだろう。
一人、また一人と囚人(チーター)たちは連れ去られていき、拷問(ごうもん)を受けたチーターも、両脇を抱えられるようにして連れ去られていった。
和真はもう、抵抗せずに身を任せるままになっていた。
反抗すればどうなるか、それも、カルケルが少し[気に入らない]というだけでどうなるかは、目の前ではっきりと見せつけられている。
目立つ動きをしないように、大人しくしている方が身のためだと思っていた。
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その時、和真の横に置いてあったゲージから、ガタン、という大きな音がした。
「うわっ!? 」
和真が驚いて思わず声をあげ、しまった、と思う間もなく、和真はカルケルと視線が合ってしまっていた。
カルケルの顔が、ニヤリと意地悪そうに歪(ゆが)む。
「おやおやァ? まだ、オレにたてつこうという気概(きがい)のある奴がいるようだ」
カルケルが「新しい獲物を見つけた」という表情でそう呟くと、指示を受けてもいないのに数名のプリズントルーパーたちが和真の周りに集まってくる。
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと、待ってくださいよ! 」
自分も、ひどい目に遭わされる。
そう直感した和真は、全身から冷や汗を吹き出しながら、手錠でつながれた両手の手の平を身体の前で見せ、慌てて事情を説明する。
「お、俺は何にもしてません! た、ただ、この隣のゲージから急に音がして! それで、驚いて! 」
「立て」
しかし、プリズントルーパーたちは、おかまいなしだった。
和真の目の前に立ったプリズントルーパーは冷たい声でそう言う。
和真は、(どうしてこんなことに……)と思いながら、ついさっきまで目の前にいたチーターの惨状を思い出して泣きたい気分になった。
だが、その時、再び和真の隣のゲージで音がした。
「ねっ、ねっ!? 音がしたでしょ!? 」
このままでは自分も痛い目に遭わされる。
そう思った和真は必死でプリズントルーパーたちに訴えかけた。
「おい、確認するぞ」
当然、ゲージから聞こえて来た音はプリズントルーパーたちにも聞こえていて、一人がそう言ってゲージに手をかけ、他のプリズントルーパーたちが、警棒を取り出してかまえる。
どういうわけかシマリスが入っていたゲージの中をプリズントルーパーがのぞき込むが、中の様子はよく分からない。
何故なら、そのゲージの中には、それ以外何も目につかないほどたくさんのドングリが詰まっていたからだ。
そして、ゲージの中でドングリは増え続けているようだった。
内側からドングリに圧迫されたゲージは少しずつふくらんでいき、メキ、メリ、ときしむような音を立てている
「くそっ! こいつ、チートを使っていやがる! 」
ゲージがとうとう耐え切れなくなって弾け飛んだのは、ゲージをのぞきこんでいたプリズントルーパーがそう叫んだ直後だった。
ばぁん、という大きな音と共にゲージは破壊され、中に詰まっていたドングリが勢いよく周囲にまき散らされた。
同時に、その中から、小さな影が飛び出してくる。
ゲージの中に閉じ込められていたはずの、一匹のシマリスだった。
無数に飛び散ってくるドングリに交じってゲージから脱走したシマリスは和真の顔面に着地すると、すすす、と素早く和真の頭上へとのぼり、そこからジャンプして、混乱している人ごみを飛び出し、部屋の中を素早く駆け回り始める。
どうやら、部屋の出口を探しているようだった。
「脱走だ! 奴を逃がすなァ! 」
カルケルがそう叫ぶのと同時に、プリズントルーパーたちが一斉に、逃げ出したシマリスを捕えるべく動き出した。
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