第六話 終わらぬ舌戦
「この式典が始まる直前に神託が降りましたので、これからご報告するところでした。――それとは別件になりますが、魔王討伐に関する報告を聞いた限りでは、最大の立役者がワルター様であったのは、純然たる事実だとご報告いたします」
チッ、やっぱり神託があったか。
俺はあえて報告しなかったんだけど、魔王が討伐されたのではなく、実は封印しただけど言うことを、あのクソ女神が伝えやがったか?
「報告の一部を聞きかじった程度の
「『勇者はひと仕事終えた。今後はより一層の手厚い補佐をし、勇者を支えよ』といった趣旨のお言葉でございました」
完遂ではなく
今後というのは、数年後に再降臨する魔王を、万全の体制で倒せというお達しに違いない。
それと第二王女の口ぶりから、仔細は伝わっていないように思える。
まあなんにしても、俺はもうクソ女神の手の平で踊らされる気はねーけどな!
「このように、神託でワルター様をお支えるよう言われているのです。それなのに、魔王討伐最大の功労者であるワルター様を追放、しかもよりによってガルゲン方面に……。国王代理殿下の下された処分は、女神レーツェル様のお言葉を真っ向から否定している事になります。どうか不当な処分をお取り消してくださいませ」
第二王女は神託の姫巫女の言葉までも使って、必死に俺を擁護してくれる。
死刑でなければ――とりあえず生きてさえいられれば、俺はそれでいいと思っていた。
それなのに第二王女は、俺のような役立たずを庇い立てる。
普通であればありがたいのだろう……が、今の俺は素直に厚意を受け取れない。
よりによってクソ女神が絡んでいるのだ、なおさら関わりたくない。
むしろ第一王女の言葉どおり、すんなり追放された方がマシだ。
ガルゲン方面とやらに連れて行かれても、俺はその先の国で幸せを探して悠々自適に生きていく気満々なのだから。
そんな事を思っていたのだが、件のガルゲンについて詳しく述べられる内容を耳にすると、俺は全身から嫌な汗が吹き出るのを感じた。
ガルゲンとはレーアツァイト王国最南西の地で、その先に国はないという。
その先にあるのは、過去は王国の領土であったベルクヴェルクという山脈で、遥か昔に数多の鉱石が発掘された巨大鉱山なのだとか。
古い文献にその事が記されており、超文明を持った古代都市がいくつも栄えていたらしい。
だが今より広大だったレーアツァイト王国の領土は、ときに通常以上に手強い魔王が現れ、魔王に強化された魔物によりその領地を奪われてしまったという。
なのでガルゲンより先は、今現在国がないどころか人類の踏み込めない地になっているのだとか。
あれ? そんな場所に連れて行かれたら、俺みたいな雑魚だと生きていられないんじゃ……。
ガルゲンについてもう一点。
ベルクヴェルのかなり手前にある小さな鉱山と、鉱夫として収容された犯罪奴隷が暮らす刑務所をガルゲン、その周辺をガルゲン地方と呼んでいるようだ。
なので、単にガルゲンと言えば刑務所行きを表すが、今回の俺は囚人として刑務所に収容される訳ではない。
あくまで、ガルゲン方面からの国外追放なのだ。
それが意味するののは、『超文明を持った古代都市を滅ぼした魔物が
しかも追放なので、許可なく王国内に立ち入ってはいけないらしい。
どう考えても、この追放は死刑と同義じゃん……。
むしろ、『刑務所に入れられた方が余程マシなのでは?』、そんな事が頭をよぎった。
「ところでツェツィーリア、其方は今代の勇者が誰だと思っている?」
「当然、虹色の紋章を持つワルター様です」
俺が絶望を味わってる間も、王女姉妹の舌戦は続いている。
「何を言っておる。今代の勇者は『剣王』のゲリンであるぞ。其方以外、誰もが認めておる」
「ですから、ワルター様は――」
「分かっておる。あくまで勇者はワルターなのであろ? 其方の中では、な」
第一王女は意味深な言い方をした。
「だが事情を知る多くの者は、ワルターが大罪人であると主張しておる。しかし余は、大罪人であるワルターに対して死刑を言い渡した訳でもなく、犯罪奴隷に落とした訳でもない。単に国外追放を命じたのみ。――むしろ、他国で自由に生きる道を与えたのだぞ、余は随分と慈悲深いと思わんか?」
「それのどこが慈悲深いのですか?! あの地からレーアツァイト王国を通らずして、他国になど行けないのですよ。それともお姉さ……国王代理は、ワルター様にあの地を開拓しろとでも仰るつもりですか?! ――かつて多くの戦力、開拓民を投入し、幾度もの失敗を重ねたあの地での開拓を、ワルター様お独りでなされと?」
おい待て、そんなん開拓以前に、俺は簡単に死ねちゃうじゃないか!
他人事ではなく、俺の処遇を巡っての会話があまりにも不穏すぎて、俺は内心で毒でも吐いてなければやっていられない心境になっていた。
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