第95話 大河の流れの如く。4/5
だが、それが否かどうかは今の現状、
「ん。
素の一人称は僕、
むしろ、イミトからの魔石越しの問い掛けに対するセティスの分析の方が、よほど意味深い事なのだろう。つらつらと淀みなくセティスが語る私見——恐らくは敵と断定した聖騎士ラフィスの性格分析に耳を傾けるように魔石の向こうは静寂。
そして端的に並べ立てられた分析に対し、思考の歯車を回して噛み合わせた様子で返答は送られる。
『……かっ、そいつぁ素敵な人間だな。便器に飾って置きたい
「うん。戦うか、逃げるか。でも無理に戦う必要が無いのは明白。下手に手を出しても不利益が多くて、勝てたとしても相手の戦力を削れるだけの
『恐らく向こうさんも、そう考える。お互いに放置が最善ではあるんだよ……
イミトの答えは皮肉が存分に織り交ざる陰口へとセティスの分析を昇華か退化させつつも、セティスが不快を口にせぬまま論議を交わせるほどの思考は行き届いている様子で。
「目的……本営」
『当然、別の可能性もあるが話を聞くに奴等の本当の目的は横流しの可能性が大きい。恐らく奴等の計画の
遠回しながら
それは或いは想像もしていない飛躍した展望を、またも予感させて聞く者らに身構えさせる
「それは……奴等が転送魔法の構築と発動に乗じて、膨大な魔力を集めようとしている、と? しかし——」
少なくとも、この時点で女騎士カトレアは身構え——二手三手ほど先に思いを馳せて、先んじて彼が語るだろう論議を否定しようとした。
けれども、まだまだ足りない。
残り一手、又は二手ほど先。或いは死角からの予期せぬ襲来すらも加味しなければ、イミトの思考には付いていけないに相違ない。
「——なるほど……言いたい事は分かった。それは確かに、有り得る話。かなりのリスクを
さもすればカトレアが指摘しようとした異議も功を奏したのだろうか。覆面の魔女セティスは女騎士の進言を止めるべく騎士の前に片手を差し出す身振り手振り。
そして彼女はカトレアに目線を動かして首を小さく横に振った後で、全てを把握したように
「——……分かりました、黙っておきます」
カトレアからすれば相当に不満だったに違いない。今しがた激情を
それでも落ち着いて彼女は不服の息を
『……何度も悪いな、カトレアさん。言いたい事は何となく分かるが、それを万が一にでも他の誰かに悟られると、さっきの話とは違う意味で厄介なんだ。出来る限り喋らない方が良い……事情は後でセティスから聞いてくれれば納得できる』
すると、今度はそんなカトレアの心の移ろいを察したか魔石越しに弁明を漏らし、先ほどの信用云々の話とは関係ないと暗に示す。
『それで話を戻すぞ。問題は、流石に時間が無さ過ぎるって所だな……敵の手の内も分かってない——俺は深追いはしないで、今回は基本的に堅実に平穏のまま知らぬ存ぜぬで街を抜けるべきだと思ってる』
『当初の予定の明日の昼は絶対に
けれど、それが伝わったか否か確認を取る間もなく、振り向くように話が戻り、セティスへ向けてイミトは今後の彼女らの行動方針を己が考えた際の最善を伝える。
『けどまぁ、判断は任せる。どのみち俺達は今からじゃ間に合わない、三人で話し合って好きに決めると良いさ』
しかし、それはあくまでもイミトが考えた場合の選択。手の届かない魔石の向こう側に名残惜しさ口惜しさを滲ませ、まるで目の前の現実を改めて自分に言い聞かせるように彼は言う。
信頼などしていない、決して。
例え九割九分の確率であろうと、己は残りの
「……分かった。私も、どちらかと言えば今の段階では合流が再優先のつもり。まぁ機会があれば狙ってみる程度の認識、欲に駆られて無理はしないと約束する」
そんな想いを知ってか知らずか、覆面の魔女セティスはイミトの声が響く魔石に指先を伸ばし、細やかになぞる様に撫でて。
『そうか、分かった。敵が話に聞いた性格なら夜襲も十分にあり得る……街を出るまで気は抜くなよ』
「そっちも体は大事に。あの子の土産には期待しておくと良い。連絡終わる」
会話の終わり、またしても
そして、沈黙と静寂。
外気の
「——……ではセティス殿、度重なる無能で申し訳ないが説明を頂けますか。あの男とアナタは、今度は何に思い至ったのでしょう」
暗黙の内に、
どうせ耳を塞ぎたくなるようなロクな事では無いと予感していても、彼女は尋ねなければならなかった。
己の無能を悔やみつつ、それでも不貞腐れる事なく前へ進む為に。
すれば、魔石間での通信が終わり盗聴の恐れが無くなった今の状況でセティスは、問いかけたカトレアに体を向けて、もう憚る理由は無くなったのだと真剣なカトレアと見つめ合い、語り始める。
「……恐らくアナタの指摘しようとしていた通り、リオネル聖教の転送魔法を構築、発動する際に発生する余剰な魔力を密かに盗む、膨大な魔力を運ぶと言っても現実問題として容器の問題が発生する」
「ええ。そこらにある魔力では足りぬ程に魔力の必要としているのなら、何らかの大規模な目的を行おうとしているのは明らか。ですが、それ程の量の魔力を誰にも悟られずに回収する為の
この街——山橋の街バルピスで
セティスは、セティスらが予測した推論に致命的な欠陥があると思い至って疑義を唱えるカトレアへと歩み寄り、先程まで魔石に触れていた指先をカトレアの胸元へと向けた。
「残念ながら存在する——アナタを含めて私たちは、それが数日前に敵の手の中にあると知ったばかり。例えば、ここにも類似品があるし」
「? ……——まさか‼ 信じられません、まさかアレが——この街に持ち込まれていると言うのですか⁉」
淡々とした眼差しに映るは、カトレアが纏っている単なる服の一枚か。
否——恐らくは、それが隠す向こう側。業深き罪の結晶なのであろう。
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