第89話 進歩する街。4/4
だが、小さな
「……あ、はい‼ ワタクシサマをお呼びで御座いますですか?」
売店の物珍しいだろう菓子の
「——……どうかした? エレベーターに乗ってから様子が明らかにオカシイ」
何処と無く本能が訴えかけてくるそんな異変に対し、淡白なれど、じっとデュエラの顔布を見つめるセティスの目線。しかし彼女は、分かり切っていたように語らない。
「え、あ……その……そうなのです、周りに人様が沢山いて、ちょっとビックリして周りが気になっているだけなのですよ。体調が悪いとか、そういう事は無いので御安心なのです」
あからさまに戸惑い、今しがたそこらにあった言い訳を拾い上げたが如く言い放つのみで——後は、先んじて投げかけられそうな問いの応えを否定として身振り手振りも交えつつ明るく述べて、若干の愛想笑いのような声色。
「……本当ですか? もし体調が悪いなら我らに気を遣わずに正直に言って頂いた方が」
「え、えへへ……本当に体の方は大丈夫なのですよ、初めての人の多さに少し戸惑ってしまっただけなのです。お菓子、美味しそうでございますね」
「「……」」
加えてカトレアも会話に混じり、どの角度から見ようとも嘘の吐き慣れてない、無垢な少女の下手くそな話題逸らしに、増々と懐疑的な眼差しは強まる。
だが言わぬ事は言わないのだろうし、言わない理由もあるのだろう。
「——……うん。取り敢えず、お土産を今買うのは荷物になって邪魔だから歩きながら食べられそうな
故に思い付く限りの彼女の理由を考察しつつ、やはりセティスは敢えて下手くそな彼女の気遣いに乗り、様子を見ていたリダへと淡々と話を繋いだ。
「あ、はい。向こう岸にも店舗が御座います、それから飲み物でしたらコチラの泡立つ水かコーヒーをおススメしています。どちらもやはり、近隣地域の特産でしてバルピスの街ならではの商品になっていますから」
「じゃあ、それで。コーヒー二つと気泡入りの水を一つ、リダの分も好きな方を」
「え、ああ……私などには」
「もう少しで折角のエレベーターも到着でしょ? 飲み物一つや二つで恩着せがましくしないから時間を無駄にさせないで」
「あ、はい……すみません」
様子見の見物人から街案内の職務に戻るリダを他所に、革袋の財布を取り出すセティス。遠慮しがちな未だ他人のリダに対しては、何故だか冷淡に聞こえる言い回し。
「セティス殿の言いたい事は、遠慮は不要という事です。他に他意は無いので悪く思わないでくださいね、リダ殿。飲み物などは私とリダ殿が買い求めに行って参りますので、デュエラ殿とセティス殿は先にエレベーターの出口の方へ」
「……
非合理的な
やがて売店で注文と会計を始めた二人を他所に、セティスとデュエラは先に売店を後にして先程まで座っていたエレベーターの窓際の席へと戻り始める。
「——人が本当に一杯で、皆様……色々な話をしているのですね。何を話してるのか意味は分からないので御座いますが」
さもすれば——苛立ちがあったのかもしれない。いつまでも、何度でも、気を遣わなくていいと言い聞かせた相手が、いつまでも、何度でもハッキリとしない態度で不器用に振る舞っている事が。
——まるで同族嫌悪で、自分の事を
「知らない人の会話に聞き耳を立てるのは失礼。ここは戦場じゃないし、気を張ってばかりだと宿に着く前に疲れてしまう」
だが、やはり気遣いは優しさ——或いは畏怖による
それでも分かっているからこそ、普段通りの淡々とした生活の調子を崩してくる相手に普段とは異なる違和感に心が
覆面の魔女セティス、彼女もまた——孤独に生きてきたのだから。
しかしながら、それらの何もかもが慣れぬが
「……ですが、敵が居るのですよ? どうやら狙いはセティス様のようですが」
唐突に声量を
エレベーター内で同じく時を待つ人混みの中、様々な話し声に溶けるような
悟るセティス。
「——分かってる。目を合わせては駄目、万が一にも
やはり同類——初めての街観光であろうと、浮かれる事も無く生活の中に刻み込まれたる防衛意識。抜群に、過剰に機能してしまう防衛本能。
——彼女も気付いていたのだ、と。
「敵の正体が分かってるので御座いますね。お手伝いは必要で御座いますか?」
「……必要ない。これは魔女である私の問題だから、それに私一人の方が色々と動きやすい」
「了解しましたのです。ではワタクシサマは大人しくしているで御座いますよ」
無垢に猟奇の是非を尋ねる少女に、セティスは深々と息を吐いて答えた。
そして——
「——……まったく、初めての環境で気圧されているのかと思ったけど本当に心配は要らないみたいだね。難しい子」
「? 難しい子、で御座いますか?」
「……イミトと似ているって話。単純明快には行かない所が。人の事は言えないけど」
「はぁ……そうなので御座いますか? 自分では良く分からないので御座いますが、それは——なんだか、嬉しいで御座いますね‼」
進歩する街で、未だ進歩しないくだらぬ
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