第83話 とても、ありふれた話。2/5

***


何故ならば、彼女達は知っていたからだ。


敗北という結果が、訪れるという事を。



「はぁ……はぁ……、ですか。少し、手厳しいですね」


林の木々に囲まれて、大の字に仰向けで倒れて息を切らすリエンシエール。

気品あふれる服が乱れ、汚れる余裕なき圧倒的な不利な状況。


それでも彼女は起き上がり、勝利を手にする。



「ですが、私は私の役目を全うせねば——はああああ‼」


命燃える限り、緑の魔力をたぎらせて——ここよりの争いに備え、樹のみきの如き太い植物のつるを周囲に産み、したがえながら、改めて戦場へと向かう覚悟を整える。


『『——その、使わせてもらう』』

「⁉ アナタ方は‼」


ゆえに、彼女のに仕組まれていたが今——噛み合って。



二本の剣が鞘鍔さやつばを鳴らし、ここより始まる三対三。


それが、己らをという結果に導く事をなる事を——知っている。


——全ては台本書きの如き茶番、お遊び、人々の心掴む為のに過ぎぬ。


されども、だ。


「——来る。気を引き締めて」


上辺だけの白々しい芝居では、分厚い人類の歴史に爪痕の一つすら残せぬのだろう。

よって、真に迫る勢いの気配を彼女らも身に宿らせて。



「ギルティア叔父様……それと昨夜の執事殿……本当に予定通りですね」


空中下、下方から猛烈な勢いで己らに向けて伸びてくる二つの巨大なつるの先端にそれぞれ、蔓の成長に負けぬ勢いで腰のさやに手を置いて走り迫る二つの異物



「ん。あの方たちも……です——ね‼」


その影の正体の名を呟く仮面の騎士の傍らで、本能で生きけものの勘の如く鋭いを持つ少女がそう評して跳び出したように、蔓を足場に迫る二人の男たちの纏う気配は確かに強者の風格、鬼気迫るものに相違ない。



「——ラディオッタ殿‼ は頼みます」


 「全く——矢継ぎ早に、この老体へ若さの波が染みる思いで御座います——‼」


空中から跳ねるが如く縦横無尽に跳び出した少女、それに対しロナスの砦の城主ギルティア・バーニディッシュは共につるを駆ける老紳士風の執事に声を掛け、戦闘開始の号令の如く剣を抜いた。


そして——それに呼応する様相で老紳士風の執事も右手に持っていたさやから左手で剣を抜き、歳を重ね精錬された白髪と同じ色合いの刀身の輝きを揺らめかせ、伸びゆく蔓から乱反射しながらに向けて勢いよく飛び出す。


 「——‼」


「……首無しのよりは御しやすそうな可愛らしい御令嬢ではありますが」



  「——ふふっ、の練習になりそうなのですよ、シワシワの人間様‼」



邂逅かいこう——狂気性すら感じさせる無垢むくなる少女と、長い年月、人の世に揉まれて経験を重ねた老獪ろうかいの交錯。右手片腕のを容易く受け流された少女の顔布が揺れ、小さな笑みがこぼれゆく。


一方——、

『なんだか知らんけど、これも想定内ピョンでしょ‼ 【氷柱楽々つらららら‼】』


 「待てユカリ、あは——‼」


リエンシエールが魔法にて操る巨大な蔓の魔法の上に残されたもう一人に、二人で一つの身体を扱う仮面の騎士が片割れの蒼い瞳の制止も効かぬままに赤い眼光を滾らせ、複数の氷柱の尖端を突き動かして襲い掛からせる。


——数は多く、あらゆる角度から、それぞれが殺意に近しい紛れもない憎悪の冷酷さを帯びた手加減など一切感じさせない氷のかたまり


しかし、


「……か。訳の分からぬで鳴くものだ」


 『「——⁉」』


一度と蔓から降りて鞘より抜かれた刃は、あまりにも厳格に、公平に、一つとして残すことも無く速度を衰えさせずに次々と刃の軌道にあるものを砕き斬り、襲い来る氷柱の群れを小さなひょうへとおとしめる。


——ギルティア・バーニディッシュ。

ツアレスト王国の騎士にして、まさしくとと評される人間。



。ここからは、互いの剣で語ろうでは無いか。魔に堕ちた愚かなよ」


空歩と呼ばれる空中歩法術を、当たり前の如く使いこなして空にたたずむ男に一切の揺らぎは無く、その眼差しは威風堂々と国に害為す者たちに向けられている。



『強いピョンね、このオッサン……ガチ目の敵ピョン……ん?』


そんな佇まいと恐ろしい程に磨かれ抜かれた剣捌けんさばきに対し、赤い瞳の仮面の騎士は冷や汗を流す想いを抱いた。されど彼女の片割れが、沈黙に務め——込み上がらせる想いを沸々ふつふつとさせている事にも気付き、



 「……ユカリ、ここから任せてもらう。手を出さないで貰うと有難い」


『あー、。これでもは読めるピョンからね』


言葉通じずともと、見つめ合う蒼い瞳の何かしらの因縁に赤い瞳はたぎる憎悪を僅かに収めて。


そして——二人の人物を運んだ巨大な蔓の成長が止まり、



「じゃあ……、がリエンシエールさんの相手か。もう武器に溜めてた魔力も使い切りそうなんだけど」


最後の最後に周りの喧騒に取り残された覆面の魔女は、溜息の如く独特の呼吸音を世界に漏らし地上から再び浮かび上がってくる一人の気品に満ちた女性にガラス製の眼部を動かす。



「——これも想定の範囲内ですか。丁度、……いえ、もっと増援が来るようですけれど」


「うん。少なくとも、アナタが心配する必要が無いのは確か【双銃ツイルズ】」


それから余り者同士、仲良くでもしようじゃないかと感情の起伏のとぼしい彼女なりの陽気さで覆面の魔女は持っていた銃を二つに複製し、小器用に二丁拳銃をてのひらの中でクルクルともてあそんでから構えを直す。



「「「では——始めよう」」」


 「「「……」」」


猛烈怒涛の急展開、近々終わる予定の線引き前に激しさを増す衝突。


の意気を吐いた三人の駒を前に、同じく敵側の駒である彼女たちも漸くと、の息を吐く。

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