第82話 薄幸の双眸。4/4
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ロナスの街の東の上空にて吹雪が
「……やはり世界は恐ろしいものです。
そうして
「あの姉の……あの強かった姉ですら、過去を思い出して震え、悪夢に
「外の世界に憧れていた私と目を合わせなくなった。姉は変わってしまった」
戦いに
「過去を忘れるように一心不乱に懸命に一族の為に働き、一族の皆に認められたリエンシエールとなって尚、争いに
「私は——そんな姉の苦悩を知りながら力にはなれなかった」
後悔はある。むしろ後悔しかない。
「私を避けていた姉に触れる事が、姉を苦しめる事になると言い聞かせて」
「姉が憎かった訳では無いのです、一族を恨んでいた訳でもない」
変化や失敗を恐れ、失態や失望を恥じて、
「ただ——この静かな森のように、何も語らねば平静が続くと信じていた」
「何もせぬ事が、身を
「自分には——何も出来ぬと信じていたから」
己を責め立て、怯え、諦め、嫉妬に狂い、何も行う事が出来ぬ己。
「——ですが今、森に風が吹く。この世の
しかし今、心を深く沈め込んだ薄幸の
「既に私の心に風が通り抜けたように、一切の迷いは無い」
東より
「姉のように美しい生命の輝きは放てずとも、夜の闇の
そして前方に差し出された腕、服の
『森を守りし先人たちよ……我が支配を受け入れ、今一度
『【
例えるなら呪われた森の王女の如き佇まい、やがて森の茨は彼女の号令を機に、一斉に既に森へと侵入しているだろう目標とされる敵を探して森の隅々まで、その魔手を
***
そして何度と語ろう。何度と言い放とう。
何も知らぬ、知ろうとしなかった哀れな者はそれらを何も知る由も無かったと呪うのだ、と。
「やっとで抜けれた……何だったんだ、ありゃ一体……」
魔素の波長を乱す波動と共に現れたロナス街の結界——天井の
「分かってる。アイツらの
「それなのに……まだ足りなかった。舐めてた……ここまで、ここまで対策されるなんて思いもしなかった」
予想だにしなかった魔力の波動を受け、調子を
「アレはヤバ過ぎる……こんなの、イカレてやがるとしか……」
脳裏に浮かぶ一人の男を
「でもまだだよ。報告しなきゃ……ここでアタシが見たもの全てを、事細かに次に活かすんだ……私たちの復讐の為に」
——逃げおおせた、計画を致命的に失敗へと追い込まれながらも、命からがら追っ手を避けて森へと進むこの呪われた罪深き身が一つ。明日のある身と信じて一切を疑わず、野心溢れる眼差しを信仰方向へと向けて強く進む。
「これまでも……どんな酷い目にあっても、そうしてきた……よう——に?」
されども
慈悲も無き、世界の
少なくとも——あの悪辣な男の口軽な魔手は問うに違いなく。
『——……見つけました』
よって森の牙は、何処からともなく響いた声と共に
「かっ——⁉ いば……らぁ⁉ カラダが、食われた⁉」
背後より猛烈な速度で煙状の身体を貫く白と黒の茨が二本。
彼女は突然の衝撃の刹那、食われたと言葉で表す。
「——……お久しぶりです。あの時の答えを、今一度アナタに贈りに参りました」
体を突き抜け、煙を散らした二本の茨の鋭い先端は煙状の敵の進行方向へ先回るや球状の絡まり始め、一人の女性を産み落としたかのように世界へと解き放ち、
「アンタは⁉ エルフ族の——リエンシエールの妹‼」
「名はレネスと申します。この
突然と姿を現した薄幸の双眸は既に力強く覚悟を持った眼差しとなりて、因縁の再会に
——レネス。やがて彼女は何の
「見逃しませんよ、今回は。森を守護する誇り高きリエンシエールの血族として‼」
「このっ——森臭いカビゴケがぁ‼」
英雄と
全ては——悪魔の如き男の掌の上で踊る
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