第75話 前提条件。2/4
「……そこまで分かっていて、イミト殿は数名の戦力でバジリスクを討伐すると? いえ……バジリスクを討伐すると見せかけて本来の狙いであるクレア・デュラニウスの体の奪還をするつもりなのでしょうか」
「で、あれば……その手引きをしたエルフ族の立場は、増々と危うい物になりかねない」
次なる疑問は、ツアレストという大国ですら御せないバジリスクという怪物どもを如何にして倒そうとしているのか。
それを考えていくに連れ、増々と不可能に思えて、さもすればイミト達に別の思惑があるのではないかと
「へへ、流石に気付くか。だけどそれも安心して良いな、ジャダの滝じゃ鎧聖女と戦う予定も、クレアの体の回収の予定も無い。あくまでも、俺の狙いは鎧聖女の情報取集とバジリスクのマザーだけだ」
故に、リエンシエールもそう考えるのではないかと予期していたかのように事前に用意していたかの如く間を置かずに彼女の指摘に応えていく。
「その事情は言えないから、信じてくれという他ないんだが……クレアに約束させりゃ、言葉の重みも増えるのかね?」
「……ちっ。その阿呆の言う通りだ、エルフ族の小娘。我の身体を好き勝手しておるレザリクスの娘とは、別の場所で正式に決着を付ける。二言は無い」
「……」
リエンシエールの印象の中で、性分として虚飾を語らないと思われているだろうクレアも会話に巻き込み入れて、更なる信憑性の為の担保へと変える。
「これが、俺達がアンタらエルフ族……リエンシエールの血族に協力する為に提示できる条件と、目的だ。その見返りに与えられるのは、今回の件で近隣の都市との生まれる対立による被害の軽減とエルフ族の権利保持を掛けた、近隣都市との交渉やらの裏工作、橋渡し」
「上手く行く保証は勿論ない……失敗すれば、もっと大きな物を失うかもしれない訳だが……」
「この泥船に乗ってみるか? これは強制じゃねぇ、俺達は別に断られても、さっさとこのまま旅を続けるだけだしな」
或いは、削り取る。イミトは己が目的の為、リエンシエールの退路を気付かれないように少しずつ、少しずつと削り取っているのかもしれない。
——すれば、エルフ族内部で燃え上がった今回の騒乱。
「……今回の件で我ら——いえ、私はゴブリンの軍勢と相対するアナタ方の気配を察知し、差し迫った事態に置いて助けを送る事もなく、助けを求めることも無く——時と天運に任せ、このような事態に至るまで何もしてこなかったに等しい大罪を犯しました」
その渦中の中心で歯止めをかける事の出来なかったエルフ族の長は、過去を悔やみつつ不吉な風音と共に飛来したような藁にでも
「そして恐らく……これからも時を任せれば、事は更に酷く、エルフの同胞は弁明の余地もなく立場を失い、立場だけでない多くを失ってしまうのでしょう」
「なればこそ——たとえ悪魔に加担しようと、守るべきものも見えています」
やがて暗黙の眼差しを受けながら、一人のエルフとして——、全てのエルフの未来を背負い、己を戒める呪文を唱えるが如く彼女は両手を胸の前で組んで切実に祈りを捧げて。
「どうか……その
「……ったく、堅苦しいったら無いな。少し心苦しくなっちまうよ……だからこそツアレスト側に対しても効果的なんだろうけどさ……」
するとイミトは、その気品あふれる礼節丁寧な振る舞いに、
そして——男は、成立した交渉とリエンシエールから拝借した
「リエンシエールさん、今回の件で反乱側に回った奴は、どのくらい生き残ってる?」
「……あの男のデュラハンの登場によって、大半が死亡。数十の残りも戦意を喪失し、捕らえておりますが」
「ん。取り敢えず、そいつらの首を切って
「——……今、なんと?」
それは余りにも非情に、準備する間も与える慈悲もなく淡々と、手を結んでしまった事を悔いてしまいそうな悪魔の倫理観を魅せつけて、重責の掛かる彼女の
加えて——思わずと瞳孔を僅かに開き、冷や汗を一筋流したリエンシエールが聞き違いかと思わずと聞き直した質問を無視し、彼は語らいを続ける。
「必要なのは誠実さだ。そして狂っているかと思う程の真面目さ」
「ツアレスト側から見て、エルフ族が反乱組と穏健派に別れていた事をハッキリと印象付けて、穏健派の結束と狂信的な態度を魅せつける」
「エルフ族の間で、意見が分かれたが結果として身内の恥は身内で処理した……そういう筋書きだ。そして、相手の出方次第だがリエンシエールさんは、ここに来るツアレスト兵に他のエルフ族と降伏の意思を示す」
「と同時に、ここでツアレスト側に戦いで命を失った仲間の死体の故郷に運ぶ人員を数名……最低限でも残してくれるように配慮を求めてくれ。その方が相手の人情に訴えかけて効果的かもしれない」
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