第72話 偽りて座する者。4/5
背後から突然と聞こえたイミトの冷淡な
あたかも脳内でイミトという人間を形作った
「封印の巫女には感謝だな、悪運が良すぎて炎上しそうな都合の良さだよ」
「クレアの魔力が届くまでが勝負か……くぅ、そういう事なら様子を見たの——によ‼」
「汝、何をした‼」
しかし既に背後ではなく遠くに掛けていくイミトの声と足音に、瞬間的に気を取り直しデュラハンは再びと細く鋭い魔力の波を周囲に放ってイミトの正確な位置を探知し、攻撃を試みる。
「素敵な文明開化さ——終わりの始まりだ‼」
紙一重で、それらの攻撃を
「小賢しい
中々と大剣の凶刃で捕らえる事が出来ぬ事態の連続に痺れを切らし、首無しの胴体が抱える鎧兜に轟々と魔力が集約し、炎の如く燃え上がりそうな魔法の気配。
『良いのか? 俺が真後ろに居るのに』
「——くっ⁉」
しかしてその隙に乗じ、左手の細い糸を引き、右手で何とか握り締める魔石に言葉を呟けば——勢いよく手繰られた細い糸の先に着いた魔石が宙に浮き、小器用にデュラハンの鎧兜の脇へと跳んで。
——魔通石。
魔物から採取できる魔石を加工した遠方と会話や連絡を取る為の魔法道具。
それが今、盲目と疑われているデュラハンの平静な心を怪電波の如く乱すのである。
「たくっ、こんなやり方——また一部の
再び背後に意識を捕らえ、振られた大剣——中断された魔法。
それを見届け、ここまで用いてきた魔通石と糸を手放し、腰の
——分かっていた。
「惑わぬ。もはや答えを求めぬ」
魔通石を用いたその
デュラハンが憤怒し、惑わされず、魔法などによる範囲攻撃をしてしまえば殆んどの体内魔力を消費し、失っているイミトに防ぐ術はない。
故にイミトは、これが最初で最後の機会だとデュラハンに向かって走り出したのだ。
「——……周辺に魔力を付与してマーキングして魔力感知。つまりは——」
「死に絶えよ‼」
恐らくは最後の魔力探知——イミトの位置を探る音波を放ったその瞬間——
「【デス・ゾーン】の応用だろ? 周波数は、こんなもんか」
「なに……⁉」
もはや他の手立ても無く、最後に手元に残していた小さな魔石を歯で噛み砕き、左掌をデュラハンへと向けて、心許ない魔力を解き放つ。
その時——腰にあった鞄から捨てていた魔石にも赤い光が灯る目暗ましのオマケ付き。
打ち消し合う微細な魔力と魔力の波——盲目のデュラハンは頼りにしていた魔力探知法を掻き消され、更に周囲に散らばった魔石の魔力にも気を取られて、走り来たるイミトの姿を見失う。
その一瞬の隙に——イミトは賭けていたのだ。
「今日ほど……中学時代に、バスケやらされてて良かったと思う日は無いわ」
「——⁉」
砕けているかもしれない右手を強く握り締めて動く事を確認しつつ、戸惑いに立ち尽くしていたデュラハンの鎧兜を、右足を
そしてそのまま、デュラハンの背後に回り、背中に体の前面を向けて後方へと跳び退いた。
視界の端に入るは、大剣を背後に振り抜こうとするデュラハンの首無しの胴体。
「……ブザービーターって知ってるか?」
「勝ち逃げって事さ」
後方に飛びながら脇腹を引っ込めて鎧兜を掴んだ左手に握力の全霊を込めて後ろに反らし、やがて放り投げる。デュラハンの大剣の切っ先は、イミトの引っ込めていた腹を僅かに
それらが一瞬の出来事。
「我の——頭を⁉」
放り投げられた鎧兜、それが向かう先は鎖で封じられている次の部屋の入り口。そこには魔王ザディウス曰く、レザリクス・バーティガルが仕掛けた魔術の罠があるという部屋への入り口。
「つっ‼……格好よくスラムダンクとは行かねぇが【
「【
腹から赤い鮮血を漏らしつつ、
「バスケじゃねぇしな」
そして未だ空を飛んだままの刹那の合間の時の流れの中で、イミトの周囲に現れる勢いの良い巨大な黒い渦の数々。
それらが創り出す巨大な棘の生えた鉄球が、ルール無用を暗に匂わすイミトの些細な号令を機に、鎧兜を取り戻した盲目のデュラハンを次なる部屋へと送り出そうと一斉に飛び出し始める。
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