第55話 やがて灰になる。1/4
名も無き嵐の夜、更に宴の時は続き——
「さぁてグダグダ、ダラダラ長々と腹も膨れて嵐も強くなってきた所で——そろそろ今後の話でもしていきますか」
「「「……」」」
ひとしきりの食事に舌鼓を打った一行を前に、座っていたイミトは両腿を平手で叩き、一行の注目を集める。それに対する一行の眼差しは、グダグダと時を無為に燃やしていたのは己だろうと言わんばかりの眼差しで。
「それともデザートでも待ってみるか? 腹を壊しちまいそうな、かき氷くらいなら直ぐに作れるぞ」
されど、その無情の冷ややかさを気にも留めず、イミトは背後を塞ぐ洞窟奥の氷壁に親指を然しつつ首を傾げる悪辣な風体。文句があるなら、まだ彼女ら一行の腹を膨れさせる心づもりである。
そんな彼の悪意が滲む提言に、
「今後の方針について詳しく話し合うという事でしょうか。我々は眠られる前のクレア殿の言葉の通り、デュエラ殿の故郷でもあるジャダの滝に歩みを進めておりましたが」
遠慮を
土台の上に敷かれた岩越しに肉へと通る熱、火力が調節させてジワリと静かに肉が汗を掻く中でカトレアの問いに対するイミトの答えに注目が殊更に集まり、静かに待たれて。
「ん。その現状報告も含めてだな……俺達は、ここが何処の森かも知らない訳だし」
「地図が汚れるから今は出したくない。ここはミュールズから南東にあたる森。イミトが今にも使おうとしている氷の奧を見れば分かるけど、小鬼系の魔物が多く出没する森」
しかしながらイミトの返答は曖昧、加えて遠回しに疑問質問をぶつけてくる始末。故に、話を先に進めるべく答えを語ったセティスの視線が、言葉の後にイミトの背後へと向かう。
——そこにあるのは只の壁ではなく、それ以上の進行を妨げる蒼の氷壁。
されど、よくよくと目を
「ああ……やっぱりアレが有名なゴブリン様なのね。勉強になったわ」
「アレらは恐らく近隣の村などを探している偵察隊でしょう。ここから更に東に向かえば、もっと小鬼の数が多くなる鉱山などが盛んな地帯に入ります。我々は今、工業都市リバティーズ近隣の町や村を目標としている所ですね」
「そうなのです‼ そこで無くなってしまったイミト様の調理道具や旅の道具を手に入れるという話だったのですよ」
そんなある意味、凄惨な光景に対し今さら驚く事でも無いと一瞥を」暮れるだけに留め、意も介さずに話を進める一行。
沈黙の蒼壁は、物の哀れに涙の如き夜露を流す。
「なるほどな……サラリとフラグが立った気もするが。それで、なんで俺達がジャダの滝に向かうか……クレアには聞いているのか?」
しかして、現在地の治安について理解を示したイミトは新たに生まれた憂慮に頬を掻きつつ、彼女らがここまで行ってきた作業についての認識を尋ねるに至る。
すると——
「「……」」
僅かに顔色を神妙に変えて、セティスとカトレアの顔が向いたのはデュエラ・マール・メデュニカの身に着けている顔布であって。
その時イミトは、何の事もなく
そして何より、視線が集まった彼女は少し息を飲み、覚悟を決めた様子でイミトへとへと向き直した。
「——クレア様からは、目的地以外の事は何も聞いては居ないのです。ですが、ワタクシサマには少し心当たりがありましたのでセティス様とカトレア様には伝えておりました。間違ってるかもしれないのですますが……それでもそれはイミト様ガタにも、お伝えせねばと思っておりますのですよ」
黒い顔布越しからも伝わってくる真面目な顔色。彼女にしては珍しい肝の据わったかのような落ち着いた声色を魅せるデュエラ。
「バジリスクが、仇討ちの為に暴れてる話か?」
「……流石なのです。奴等は、家族の死を決して許さない連中なのです——もし、バジリスクの連中がジャダの滝の近くで暴れ始めているのだとしたら、それは——アレ達の家族を殺したクレア様やイミト様……そしてワタクシサマを探しての事だと思うのですよ」
だが、語るまでも無く状況を看破するイミトの一言に僅かに気圧されて
そうしている内に、そんな二人の考察に横槍を挟むものも現れて。
「ふむ……しかし、そのような結論に向かう根拠が解からぬな。イミトは、レザリクスの甘言の口車に乗って行き先を決めたが……デュエラよ、貴様は何故その些か突飛すぎる結論に至る」
「……? それは、どういう意味なので御座いますですか、クレア様?」
理解の気配を滲ませつつも、怪訝にデュエラの様子に目を配るデュラハンのクレア・デュラニウス。彼女の遠回しな疑問の意味がデュエラには解らず真意を問う。
あくまでも純朴——純粋な思考でのみ動く少女の素朴な問い。
そんな彼女に対し、或いは不器用な魂の片割れを補い、もう一人のデュラハンは再び己へと視線を集めるべく即座に動き出して。
「つまりだ、デュエラのその物の言い方じゃ、バジリスクが暴れる可能性を知っていたって事になる。お前はジャダの滝の生まれで奴等の生態に詳しいのは分かるが、三つ首のバジリスクを倒したのは俺とクレアで間違いは無い」
「少なくとも、監視用の蛇たちの目にはそう見えただろうし、事実そうだ。なのにお前は、まるで自分も報復の対象であるかのような口振りじゃねぇか?」
難儀難解で順を追い詰めようとするクレアの真意を噛み砕き、傍らに置いていたレモン水を啜り、
理路整然と、過去を振り返りつつ彼は、彼女とは違う順を追ってその答えを引き出そうとしているのである。
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