ピエロ・イン・ガーベージ 2

「さてと、隠し部屋のゴミを掘り返しに行くぞ」

「行政代執行する役人さんの気分だね」

「ま、まだゴミと決まったわけじゃないですし……」


 これまでゴミばかり見ていたため、全く期待していない様子の2人へ、ヨルはそれでも前向きな事を言った。


 3人が来た道を戻った先に、ジェット噴射と装輪兼用の運搬用3人乗り小型トラックが駐まっていた。


 その車体は、ミヤコがスクラップから作った物で、運転席は露天だがシャッターを展開すれば宇宙空間でも移動が出来る上、

 変形して小型化できるというとんでもない代物だった。ちなみに小型クレーンも荷台の前方に付いている。


 荷台に純金メダル1枚だけが乗った、そんな機材に乗り込み、3人は1番近くにあった絵画の保管庫へと向かった。


「この頃特に思うんだが、ミヤお前マジで何者なんだよ」


 操縦はフライフィッシュⅡとほとんど同じ感覚で、ザクロは感心を通り越してもはや呆れていた。


「ボクは単なるエンジニアさ」

「お前の基準は幅が広すぎんだよ。スクラップ使って1からこんなもん作るやつが一体何人いるんだ」

「いやいや、スクラップなのは車体だけでエンジンはほぼ新品だし、設計図は祖母が作ってたものをそのまま使っただけさ」

「そりゃそうだけどよ」

「爆発もしないしね」

「なんで残念そうなんだよ。してもらったら困るっての」

「ユミさんが祖母はよく爆発させてたって聞いたんだけれど、天才は爆発するものじゃないのかい?」

「聞いたことねぇわそんな話。なあヨル」

「あっ、はい。芸術なら聞いたことありますけど……」

「ゲイジュツハバクハツダッ」

「なんて? ミヤ」


 などと無駄話をしている間に、隠し扉の前を通り過ぎてしまいバックで戻ってきた。


 ミヤコがコピーしたシステムを使って、ロックを外して隠し部屋へと入ったが、


「これ、もしかして全部偽物じゃねぇの……?」


 芸術はそこまで詳しくないザクロでも分かるほど、程度の低い贋作がんさくが棚に所狭しと収められていた。


「1つぐらいはあるんじゃないかな?」

「だと良いがな……」


 3人がかりで通信端末のアプリを使って査定していくが、ことごとく贋作判定ばかりが出続けて、ヨルの祖父が描いた下手くそな絵20枚以外は贋作という結果に終わった。


「流石にバカじゃねえの?」

「直球だねぇ。まあ、ボクもまさか1つもないとは思わなかったけれど」


 あまりにも物を見る目がないヒュウガ3人衆へ、ザクロはオブラートも何も無く陰口を叩く。


「使えねぇな。娘のために資産すら残せねぇのか」

「なんかすいません……」

「ヨルが謝るこたねぇよ」


 再び3人がかりでラベルを貼り付ける中、ヨルは身内のダメさに申し訳なさそうに目を伏せた。


「……」

「どうしたヨル」


 それと同時に、自分が幼少期に描いたものが何一つ無い事をザクロに言いつつ、非常に複雑そうな表情を見せる。


「私のことなんて、父たちはどうでも良かったんですね……」


 諦めたような痛々しい微笑みを浮かべつつそう言ったヨルへ、


「ヨルは、そいつらに愛されたかったか?」

「えっ」

「愛して欲しいと思える連中だったか訊いてんだ」

「そう、ですね。あまり……。はい……」

「じゃあ別にいいだろ。愛される相手を選ぶ権利はあんだから」

「相手を選ぶ……?」

「そりゃお前、嫌いなやつから愛されるのは気持ちわりぃだろうが」

「だねぇ。ボクは勘弁願いたいよ」

「なるほど……?」


 ヨルは作業の手を一端止め、首を捻って腕を組むとしばらく黙りこみ、


「――ッ。ですね」

「だろ」


 ハッと首を真っ直ぐにして目を見開き、ザクロの目を見てそう言う。


「ヨル」

「はい?」

「お前、そんなんでここから先大丈夫か?」

「ど、どうなんでしょう?」

「訊き返すなよ……」


 本人も自覚がある様子で困り顔をするヨルに、ザクロは後頭部を触りながらため息を吐く。


「クローってヨルの先々のこと、本人より考えてるよね」

「うるせぇ」


 にんまりしながら囁いてきたミヤコに、ザクロはその側頭部に拳を軽く当てて抗議する。


「よいしょ……。あれ?」


 作業を再開していたヨルは、片隅に置いてある3つ並んだ木箱を持とうとして、尋常では無い重さを感じて手を離した。


「その箱重たいか?」

「あっはい」

「持ってやんよ」

「ありがとうございます」

「重ぇな!? 何が入ってんだこりゃ」


 ひと抱えほどのサイズにもかかわらず、大男でも持ち上げて投げ捨てられるザクロですら動かすのが限界だった。


「中身出すか」

「そんなに重いなら純金像だったりして」

「成金だしあるかもな」


 ほんの僅かだけ期待して箱のシャッターを開いてみると、


「ひゃああああッ!?」

「うわあ」

「なんだッ」


 ゴロン、と出てきたのはヨルの父親の石膏胸像で、ヨルが悲鳴を上げると同時にザクロが思わず蹴って破壊した。


「あわわわ……」


 頭と身体が綺麗に別れてより不気味な様子になってしまい、ヨルは驚き過ぎて引っくり返っていた。


「これガワだけ木が貼ってあんのか……」


 腰が抜けているヨルを座らせてから箱の中身を確認すると、中は木材ではなく金属製の金庫だった。


「てことは……」


 ザクロの予想通り、ほかの2つもヒュウガ3人衆の胸像で、明らかに価値がない事が丸わかりだった。


「……」


 極めて苦い顔をするザクロは、無言で胸像を中にしまって何も言わずに廃棄物ラベルを貼り付けた。


「ばっちいから次行こうぜ」

「だね」

「はい」

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