第6話
ガニメテ恋情 1
戦闘艦型スペースコロニー『NP-47』のどこかにある、とある暗闇の一室にて、
「――ん? コイツ……」
マフィア関係のデータを
「わ、なんですかこれ」
「気になるかい? これは球形飛行体型防犯カメラさ」
ソウルジャズ号が
「なるほど……。中身の超小型テールシッター機の回りをカゴで丸く囲っているんですね」
「まあ基本形状は祖母のですらない借り物だけれどね。中身はほとんど祖母のデータが元ではあるけれど」
「なるほど……。それにしてもこれだと、多少離着陸をミスしても平気ですねっ」
「うん。でもコイツの凄いところはそれだけじゃあないんだ」
「というと?」
「百聞は一見にしかず、さ」
ミヤコはその非常に端正な顔立ちにニヤリと笑みを浮かべ、ゲームパッド型のコントローラを手にした。
機体と一緒に電源を入れると、ホログラム画面にN、M、Cの文字を合体させた旧ニシノミヤハラ社のロゴが表示され、次に機体カメラからの映像が映った。
コントローラからメインスイッチを入れると、ブゥーン、という音がしてほんの僅かに浮かび上がると、横倒しの画面の上下が正しいものになる。
「じゃあまずは壁から」
「壁?」
足元に置かれたノートパソコン型端末に、各種数値が正しく出ている事を確認したミヤコは、ジョイスティックを操作して駐艦エリアを区切る壁に機体を張り付けた。
「よし、良い感じだ」
マニュアルからオートに切り替え、壁に張り付いたまま防犯カメラの様に周囲を見渡す。
画面の奥にあるソウルジャズ号甲板上に、柵に両肘を乗せて物珍しそうに試験飛行を見つつ、煙草をふかすザクロの姿が映った。
データがしっかりとれたところでマニュアルに切り替え、今度は床にそのまま落下させた。
「ぶ、ぶつ――からない……?」
ヨルが焦って慌てふためくが、地面にぶつかる前に機体が勝手に減速し、最後はそのままふわっと軟着陸をした。
「マイコンとセンサーも問題なし」
「す、凄いですね……」
「まだ序の口さ。面白いのはここからだよ」
そう言いつつ、ミヤコは縦軸を上げないまま、横軸方向のジョイスティックを動かした。
「わひゃっ」
すると、機体がゴロゴロと床を転がって縦横無尽に動き回り、ヨルはその突拍子もない挙動に驚いて跳び上がる。
「画面を見てごらん?」
「はい。……あれ、画面が回ってないですね?」
「これは転がっているときに、一定の向きの映像だけを集めて動画にしているんだ」
「なるほど……」
プログラムに合わせて転がっている機体を目で追いかけるヨルへ、実はもう一段階あるんだと言って、機械をピタリと止めて浮かび上がらせた。
「実はこの機体、ゴム弾を発射する装置がついていてね。もしものときは撃退までやってくれるのさ」
人がいるエリアから少し離れた所でホバリングさせ、機体下部の穴から発射されたゴム弾が壁に当たって跳ね返った。
発射の反動は完璧に制御されて打ち消され、機体は何ごともなかったかの様にホバリングしていた。
「よし、テストは完璧だ」
それを見届け数値を再びチェックしたミヤコは、こくんと頷いてかなり満足げにそう独りごちた。
データを保存した後、端末から帰投のコードを入力し、ホームに設定してある箱にドローンを戻した。
「ミヤコさんはやっぱり凄いです」
「いやいや、ボクは祖母をはじめ、先人の努力の賜物を借りているだけさ」
ボクはまだまだだよ、と謙遜しながら、ミヤコは足元に置いてある機材をキャリングケースに片づける。
「祖母のジャンク品データが無ければ何も作れないからさ」
「それって形見の品でしたよね」
「うん。興味があるなら見るかい?」
「えっ、良いんですか? 企業秘密とかそういうものなんじゃ……」
「そのままじゃあ参考にならないから別に構わないよ」
組合わせるだけで無限の可能性を出せるデータに、ヨルは若干遠慮しながらも興味深そうに目を輝かせる。
ミヤコはヨルを引き連れて、ソウルジャズ号の正面から見て左側に設置された、櫓型の足場の階段を昇って艦内に入ると第2階層へ降りていく。
その足場はヨルがあまりにも梯子から落下しかけるため、見かねたザクロが設置したもので、発艦時には自動で船体から離れるようになっている。
ちなみに、その導入費とザクロが捕まえたメイド服のクラッカー・ロザリアの主人宅の買い上げで、ロザリアの懸賞金は全額なくなっていた。
「……メアのヤツぁ何やってんだ? あの手のもん好きだろうに……」
灰皿になくなりかけた煙草を潰して1人つぶやいたザクロは、2本目に着火して煙草の煙を吸い込んだ。
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