ステール・リフレクションズ 6
*
ものの数分でミヤコが作った代用パーツをつけ、電力を通しても問題ない事を確認した後、ソウルジャズ号はザクロ、ヨル、バンジ、ミヤコの4人を乗せて宇宙空間へ上がっていた。
「しかし、お前とんでもねぇな……。十分才能あるだろ」
「そんな事はないよ。祖母ならしばらく使える物を作っていたはず」
ミヤコを後部座席に乗せ、フライフィッシュⅡの地上との角度を調整しながら、ザクロは彼女を称賛するがミヤコはそれを否定する。
フライフィッシュⅡのビーム砲の先端には、ミヤコが工房にあった2枚の金属板と機器の部品を組合わせて作ったフタが付けられ、その間に記録装置が挟み込まれている。
金属板がバネの力で前に飛び出す様になっていて、ミヤコがリモコンのボタンを押して、発射直前に前方に飛ばしたそれを撃ち抜く様になっている。
「希代の天才と比べてどうすんだ。お
「でも――」
「クロー殿! 縦7時横8時の方向に艦影あり! 『連邦国』CR-23駆逐艦でござる!」
「おー。お早い出勤だこと。ミヤコ、お
「う、うん……」
届かない距離からでも砲撃を始める、長細い四面体の駆逐艦を横目に、ザクロはミヤコにサムズアップを見せつつそう言って会話を打ち切った。
『おい、レイ。逃げられるかどうか1発勝負だが、死んでも文句言うなよ?』
『どうせこのままここにいても、どっちにしろ爆発の巻き添えで死ぬじゃない』
『そりゃそうだけどよ……』
『思い切るときは思い切らなきゃ、勝てる博打も勝てなくなるわよ』
『……そうだな。よぉし、行くぞ!』
『ええ。――全部あなたに預けるわ』
「クローさぁんっ」
ソウルジャズ号のバリアにビーム弾が擦る様になり、ヨルの悲鳴が無線で聞こえる中、
「うろたえんなヨル。もうちょっとの辛抱だぜ。――ミヤコ! 押せッ!」
「押したッ!」
ビーム砲のチャージ完了と共にザクロは指示を出し、それに従ってミヤコはリモコンのスイッチを押し込む。
想定通りに金属板が飛び出し、ザクロはそれにフルチャージのビーム弾を寸分違わずど真ん中に当てた。
記録装置は金属板と共に凄まじい速度で加速し、あっという間に赤熱して地球へと落ちていく。
すると、記録装置から凄まじい出力で電波が発せられ、位置情報がはっきりと分かるようになった。
それを拾った駆逐艦は、ザクロ達そっちのけで大慌てで方向転換し、バリアを張って猛スピードで追いかけていく。
「あれ、クローさん! なんか電波から音声が聞こえませんか?」
「ん?」
「もしかして……。クロー! 周波数を385
「例の特定の周波数って語呂合わせかよ。ほい」
ザクロが指示された周波数に合わせると、
「――やあやあ、これでボクもやっと成仏できそうだ。ご苦労様だったねミヤコ。これから君はボクの事は気にせず好きに生きて欲しい。じゃあねー」
少し寂しそうな高笑いで終わる、女性のしわがれた低い声で吹き込まれたメッセージが、ちょうど30秒ごとに繰り返されていた。
「おばあちゃん……。これは趣味が悪いよ……」
怒られてもケロッとしている祖母の顔を思い出し、ミヤコは笑みを浮かべながら涙を流していた。
「おいおいおい。メア、こりゃどういう仕組みなんだ」
「皆目見当が。もしかすると、これが彼女の最大の発明かもしれんでござるな」
「すごい……」
ソウルジャズ号に機体を格納する作業をしながら、ザクロとバンジは粋な遺言に表情をほころばせ、ヨルはただただその超技術に魅了されていた。
その音声は徐々に小さくなっていき、やがてただのノイズへと変わっていった。
格納が終わり、ザクロとスッキリした表情のミヤコが艦橋に戻った頃、
「さてと、もういっぺん戻――」
「あっ、CR-23が何かにぶつかったでござるな」
もはや燃え尽きた記録装置を追いかけていた駆逐艦が下部から火を噴き、すぐさま艦全体が赤熱し始めた。
「ああ、そういえば小型の
「ありゃもう助からねぇな。くわばらくわばら」
ヨルが目を閉じて悼む様に祈る様子を見て、ザクロも一応手だけをスッと合わせた。
「あの角度だと……。クロー、この艦、測定装置ついてるかい?」
「簡易ならあるが。それでいいか?」
「十分」
ヨル以外の2人は割と他人事だったが、ミヤコはその速度と角度にある危惧を覚えて、ザクロの許可を取ってコンソールを借り、落下していく駆逐艦だったものをロックオンする。
「どうしたよ?」
未だかつて押されたことのない速度での、物理キーボードの打鍵音に困惑しつつ、鬼気迫る表情のミヤコにザクロが訊く。
「ああ、やっぱり。あのままだと、アリーシャさんの工房の辺りに落ちるよ」
「うっそだろオイッ」
「へッ!?」
「あー、南米管区気象局から警報が出されたでござるな」
「場所は?」
「ミヤコ殿の言うとおりでござる」
「やべえッ。出すぞ!」
それを聞いたザクロは血相を変え、降下用のバリアを展開すると同時に地球への降下を始める。
「おいアリさん! 警報見てっか!?」
通信ができるギリギリの間を使って、ザクロはアリーシャの工房に電話をかける。
「見てるよ!」
「そうか! さっさと避難しろ! ヘタすりゃそこの辺火の海だぞ!」
「避難だ? バカ抜かすんじゃないよ。お客のもん預かってんのに」
「そりゃアンタだ! 死ぬぞ!」
「へっ、死ぬのが怖くて軍人なんかになってりゃしないよ!」
「んなこと今どうでも良いだろ!」
「なーに、策はあるさ」
「は?」
「お前さんも見ただろ? あのミサイル使うんだよ」
「いやいやいや、アレ単体じゃ動かねえだろ!」
「知ってるよ! なんのために高い金出して最新式のレーダー車買ったと思ってるんだい!」
「いや金の使い方考えろ! それに、あのサイズでそれは――」
「うるさいねぇ! やってみなけりゃ分からんだろ!」
若いくせにチャレンジャー精神が足りないね! と、モニターの向こうのアリーシャは、緊迫する状況下にも関わらず楽しそうな表情を見せて通話を切った。
「切りやがったあのバアさん!」
「ザクロ、もう限界だ」
「チ……ッ」
怒りと焦燥混じりの声でもう一度電話をかけようとしたが、手すりに簡易ベルトを掛けたバンジに腕を掴まれ、諦めて運転席に座り直した。
「あれ、今の……?」
「シャッター問題なーし、でござる!」
バンジもそのサングラスの下で焦っていたため、思わず素に戻っていたが、すぐにいつものねっとりした高い声に戻ってしゃがみ込む。
「ええいクソッ。死なせたらどうやってアイーシャに顔向けしろってんだ! つか、あんなもん撃ってもあんなでけぇもんには焼け石に水だろがッ」
「……ッ」
今まで見た事の無いほど焦りを表に出すザクロに、ヨルは何も声をかけることが出来ずに、無言で奥歯を噛みしめ悔しそうな表情を見せる。
最低限のレーダーとカメラ映像を頼りに、ソウルジャズ号は減速しつつ降下していく。
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