22話 中野柚希 ⑪

 9月は、2 回デートした。

それ以外は、私は今までと全く変わりない生活を送っていた。

会社へ行き、普通に仕事をする毎日。


長野と東京の間の新幹線の停車駅で、9日は大宮、23日は高崎でデートした。

ショッピングしたり、食事したり。

2週間ぶりで、ちょっと久しぶりに会うから、話したいことがいっぱいあるみたいで、とおるはよく喋る。

高校時代どうだったかな〜って思い出そうとしても、あんまり思い出せない。

倉田くんとそれほど接したことがなかったなと思う。

剣道の稽古は、よくやった。

でも、それだけ。

まぁ、なんの関心もなかった。

だから、特に昔からの知り合いと思わずに、今のとおるを見ればいいのかなと思う。


性格は、まじめだ。

でも、クソ真面目な感じではなくて、面白いことも言うし、よく笑う。

笑った時に、クシャっとなる笑顔が、かわいい。

私に気を遣ってくれる。

レディファーストとゆうか、さっとドアを開けてくれたり、押さえていてくれたり、歩道を歩いていても後ろから自転車がきたりしたら、肩を抱いて引き寄せてくれる。

守られてる感じがする。

警察官だからなのかもしれないけど、強くて、優しい人って感じ。

身長は、179センチだって。

ちょうど私と20センチ差だ。

引き締まった体。

日焼けした腕も男らしい。


「ね〜、とおる、モテるでしょ?」

「えっ?俺?モテないよ!なんで?」

「よくよく見たら、かっこいいんだな!って思ってさ」

「あはははは!よくよく見たらって!

モテないよ。

モテるってゆうのは、矢沢先輩みたいな人を言うんじゃん!俺、全然だよ」


いや、普通の人のレベルではモテる方だろう。

えいちゃんと比べるのは、ちょっと違うな。

桂吾も、すごいモテモテだったな。

あぁゆうレベルの話じゃなくて、なんてゆうか、普通の人の中ではモテるだろうなと思った。


 

 会社で、社員旅行の案内の回覧がきた。

社員旅行は半強制。

余程の事情がない限り参加しなくてはならない。

結婚している人は、よくわからないけど免除される。

独身者で断わることは、ほぼほぼ無理だ。

めんどくさいな〜と思いながら、回覧に目を通した。

11月10、11日

横浜八景島シーパラダイスと中華街と鎌倉の旅


ん??

温泉じゃないんだ!?


割といつも温泉地へ行って、大広間で大宴会ってゆうのが多い。

横浜か〜。

いつもは、よく見もしないでハンコをついて、回してしまうけど、今回は、じっくりと見た。


1日目にシーパラで遊び、夜に中華街で夕食を食べて、ホテルはビジネスホテルのシングルルームに泊まる。

2日目は、鎌倉。

鎌倉の大仏と、鶴岡八幡宮参拝。

で、帰路につく。


1枚コピーした。

とおるに見せよう。

1人部屋だし、気兼ねしなくていいな!

横浜だし、夜にとおると会えたらいいな!

とりあえず、参加する方の欄にハンコを押した。


『社員旅行で、11月10日に横浜に行くんだけど、仕事終わってから、夜 少しでも会えるかな?』

とおるにメールを送った。

 

『11月に入らないと、はっきりしたこと言えないけど、夜勤とかにならないように希望は出してみるよ。会いたいな』 

と返事がきた。


10月は7日と21日にとおるとデートした。

「そう言えば、社員旅行で横浜って、どこに行くの?」

とおるが聞いてきた。


「あっ、そうだ。これ、日程表」

バッグから取り出して手渡した。


「ヘぇ~、なんか珍しいね!ってゆうか、社員旅行って普通なの?」

 

「うーん、今あんまり聞かないよね!

よくわかんないけど、うちの会社、社員旅行にすごい予算とってるからね。

旅行代金の半分は自己負担で半分は会社が出してくれるの。

自己負担分は、毎月旅行積立って、給料から天引きされてるの」

「ヘぇ~!ますます 面白いね!

うちはさ、そうゆうのないじゃん!

民間企業じゃないからさ。

いいな〜!楽しそう!」

笑いながらとおるが言った。

「え〜!民間企業、めんどくさいこと多いよ〜!忘年会とか、新年会とか、何周年パーティとか。女子社員なんて、コンパニオンみたいなもんで、お酌して回らなきゃいけないし、ゆっくり食事なんてしてらんないんだよ!

酷いもんだよー!」

「そうなの?いろいろ大変なんだ」

「あれ、まだわかんない?10日の予定って」

「あっ、うん。でも、夜勤は入らないようにしてもらえたから、18時あがりか、20時あがりかのどっちかだと思うから、遅くても21時前には行けると思うよ。

このホテルだったら、桜木町の駅で待ち合わせしよ!

時間は、仕事終わったらメールするよ」

そう言って、日程表を返した。 

「うん。私、中華街で夕飯食べちゃうから、ちょっとお酒でも飲みに行く?」

「うん、そうしよっか。

ゆきと、酒飲むの初めてだな。楽しみにしてるよ」



 その夜 夢をみた。

どうしてだろう。

田坂の夢。

今日の夢は音声付き。


「2人のうち どっちかだよ!」


「田坂!!わたし、田坂のことが好きなんだ!!田坂がさとみのこと好きだとしても、

私は、私は 

田坂のことずっと前から、ずっと好きだったから!!」


大きな声で言った。

でも、その声は田坂には聞こえていなかった。

田坂はさとみと楽しそうに喋っている。

こんなにも大きな声で叫んでるのに、どうして!


「どうして!!」


自分の声に、ハッとして目が覚めた。

私は涙を流していた。

何 泣いてるんだろ……

もう、10年以上も前のことなのに……


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