夏土用の皮膚と耳

 夏土用の皮膚と耳




早朝


ごくほそ目に開けた窓



網戸を通して



ゆるゆる ひよろひよろ

見えぬものが動いてきて


首や二の腕のあたり

ひやひや纏綿てんめんし流れ去る



物憂く見遣ると



向かひの丘



あれは

蟬しぐれといふにはずいぶん遠い。



しいんとした耳鳴に



同期し 重なる油蟬



起上たちあがる みんみん蟬



背景に 油蟬



ごく近く 奧底に耳鳴




家人が朝のココアを運ぶあしおと

疊の表面を擦つて進む足音




 ――見えぬものが纏綿し流れ去る




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