第6話

 水星案件は人類社会科学技術基盤上への基礎失陥の存在を示唆する高脅威度事案でありながら同時に、緊急性は低い、事象、事例、対処方針、何れも不透明で情報収集要素分析により全容の解明を企図する段階であり、具体的な対処行動は不明にして、故に不可能である、要研究対象であった。

 対抗事例は唯一現在一件のみ、それは今、何人も犯し難き物理法則が支配下にあり航宙途上とあれば、既に発令の結果を経時処理にて時間待機以上の手段は存在しない。

 そして、水星を合図とするかに、人類社会に事件、事案が続発する。

 指導層並びに行政能力を超過し複数累積した其れらは結果、現状事態把握そのものを不可視化し、遂には混迷に至る。


 物理的にも社会組織的も。

 二人と一艦が何らかの形で関与する、能力も無ければその意思もなかった。

 眼前で、人類社会が示す様態を、見つめていた。


 最初に月が微動した。

 数年来の交渉要件であった、内惑星通商保全協定の破約であった。

 地球、月が航宙警備救難活動を目的として保有運用する組織資産の、統合及び積極的相互支援による地球・月及び周辺附帯宙域での運用効率向上並びにその効果による総合能力の拡充についての二者間協定条件交渉の予備協議が、期限内の妥結を得る事なく時間切れで流産の憂き目を見たのだ。

 具体的には組織活動基盤であり重要施設である両陣営の母港機能を統合新設するとし、これは協定の目玉であり前提でもあった、が、拠点新設候補として選定された地球月ラグランジュ複数から、最終決定の絞り込みで結局もの別れ終わった。

 消息筋はしかし本件につき、準備不足に加え統合前提は無謀な条件、月の負担を無視した強引な施策等々、成果の無い期限決着について理解と擁護の見解、劣悪な環境で皆ベストを尽くした、がんばった、感動した! を伝えていた。

 並行する火星の情勢は、不心得なハイカーのポイ捨てが山火事を、ひいては酸素供給を脅かすほどの爆炎が大地を焼き尽くす、大惨事と化す、そうした光景であった。

 現地が報じる不和が騒乱となり暴動と化し臨時政府が樹立された。

 決定的破局、地球対火星の戦争の危機を予感しつつ全人類が見守る中、しかし事態は地球からの支援予算増額の確約によりつつがなく、終息を迎えた。

 「ヘルメッセンジャー」も予定通りスイングバイにより月への帰還軌道に乗ったところだった。

 大団円、人類円満解決。

「めでたし、めでたし」


 ???。

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