恋は寓目――⑫

「いやあ、可愛い写真がいっぱい撮れた撮れた」


 色々な髪型をしたわたしの写真が表示されたスマホを眺めながら、美織は楽し気に微笑む。

 夜ご飯(デリバリー)を終えたあと、わたしと美織は部屋でくつろいでいた。パジャマパーティーである。

 すでに寝る準備は全て終えてしまって、あとはベッドに入れば今すぐ電気を消してもいいくらいだ。

 今日はわたしの部屋ではないため、押し入れに文字通り押し入れたアレコレは物理的に見れられない。それだけで気が楽だった。


「……あんまり見られると、恥ずかしいんだけど」


 先ほどから美織はずっと、わたしの写真をみている。いくら写真とはいえ、いつまでもそればかり見られていると、頬が熱くなってしまう。見ているのが好きな人だと考えると、特に。


「私、妹ほしかったんだけどさ、」


 美織は笑顔を崩さずに続ける。


「もしいたら毎朝、髪結ってあげたいなーってずっと思ってたんだ」

「それで今日はあんなにウキウキだったんだ」


 でも美織、朝起きれないじゃんという無粋なつっこみは置いておいて。

 けれど、一つ疑問が残る。美織だったら友達も多いし、他の子を泊めた時にその子の髪を使ってもよかったはずだ。なぜどうして、わたしの髪を二時間もいじり倒す必要があったのだろう。嫌だったとか、そういうことではなくて。むしろ嬉しかったのだが、純粋に気になってしまった。いや他の子を泊めた時の美織のテンションを知らないから、一概には言えないのだけれど。もしかしたらわたし以外にも、二時間とか三時間を使っているのかもしれない。


「ありがと、楽しかったよ」

「わたしも、今日は楽しかった」


 わたしにとっては、好きな人の家に泊まりに来れたという高揚もあるけれど。それを抜きにしても、例えわたしが美織に恋心を抱いていなかったとしても、きっと今日の日は思い出として胸の中に刻まれていたことだろう。

 なにせ友達の家に来たのなんて、これが初めてだ。


「どうする? もう寝る?」

「わたしはどっちでも……」


 どうせ徹夜するつもりだし。時計の針がどこを指そうが起きている時間は変わらない。

 美織はふわあと大きなあくびをして、


「じゃあそろそろ寝よっか〜〜、私もう眠くて眠くて……」


 涙で潤んだ目に、無性にドキドキする。美織があくびをするのはいつものことだが、教室でこんなにも無防備なことはない。緩みきった頬、だぼだぼふわふわなピンクのパジャマ(ちなみにわたしはパジャマを着ない派なので、ジャージである)。なにここ、桃源郷──糖限郷? ここがわたしの追い求めていた糖限郷なのか? 甘いにも程がないか? 糖尿病で死にそうだな、これ。


 ……それにしても。


 ぼふっとベッドにダイブし、ごろごろと寝っ転がる美織。子供っぽいその仕草を見て、自己嫌悪に陥る。

 どうしてこの子は、こんなにも無防備になれるのだろう、と。

 わたしは美織に、こんな姿をさらすのは怖くてできないのに。

 なのに彼女は、全てをさらけ出してくれる。

 それはきっと、わたしを信頼してくれているから。だから怯えることなく、臆することなく、美織は美織のままでいてくれる。


 でもわたしにはそんなことできない。


 美織にを信頼していないわけではない。むしろ誰よりも信頼できる相手が美織と言ってもいいくらいだ。

 けれど――わたしはどうしても、尻込みしてしまう。

 本当の自分を見せてしまえば、美織が離れていくのではないか、と。

 それを思うと、怖くてたまらなかった。

 だから部屋も片付けたし、美織が寝ている横で夜を徹した。すべては、美織に嫌われる隙を与えないために。

 そのためになら、わたしは何でもできる気がした。

 彼女だけには絶対に、嫌われたくないから。


「……そういえばわたし、どこで寝ればいいの?」


 美織の部屋は、昼間の片づけの成果もあって、布団を敷くスペースくらいはあるが、しかし肝心の布団はどこにも見当たらない。これだけ広い家となると、ベッドの備え付けられた客室もあるのかもしれないが、わたしはその場所を知らないし。

 と、美織の方を見ると、不思議そうに眼をぱちぱちさせていた。


「え? ここ」


 美織が指さしたのは――、今美織が寝転がっている、ダブルベッドだった。


「え、隣で寝ろってこと?」

「一人じゃこのベッド大きいし、別によくない?」


 確かに棒のように細い美織には、このサイズのベッドは持てあますのかもしれないが……、だからと言って、わたしがその隣で眠るのは、問題がありすぎないか?


「ほら、こんなに大きいいベッドにいつも一人だと、寂しいんだよねー」


 いやでもこれ、わたしの理性が持たない気がしてならない。好きな人の隣で寝るとか。寝るとか!!!!!!!!!!!!!

 ……お風呂で裸をみてしまったわけだし(ぼやけてよく見えなかったとはいえ)、隣で寝るくらい今更なのかもしれないが。


「ちなみに、ここで寝ないなら星火は床で寝ることになります」

「……拒否権はないってことね」

「物わかりがよくて助かる」


 ここで強く拒否しないあたり、わたしの意思の薄弱さも相当なものだと思う。本当にやばいと思ったのなら、床でもどこででも眠ればいいものを。押されるがまま、言われるがまま、承諾してしまった自分の浅ましさが心の底から恥ずかしく、消えてなくなってほしかった。

 願うなら、この気持ちごと。

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