恋は寓目――③

7/12 くもり


 同性婚を認めないことが、違憲か否かというやり取りが、昨今の日本ではちらほらと散見される。

 詳しいことは分からないが、法の下の平等に反する? らしい。スマホをいじっている時にたまたま目に入ったニュースを流し読みしただけなので、本当に大した知識はないのだけれど。

 そのニュースを読んだのは、今から何カ月前――はたまた何年前か。読んだ時期すら曖昧な記憶だけれど、いやに新鮮で斬新で、海馬の隅にこびりつくものだった。


 当時のわたしは、きっとこう考えていたことだろう――わたしには関係のないことだけど、と。


 身体的にも自己認識の上でも、わたしの性別は女である。あくまで自分のことを、どこにでも転がっているような芋女だと思っている。好意の対象も当然、男の人だろうと思っていた。

 しかし考えてみれば、わたしはそれまで恋をしたことがなかった。にも関わらず、自分の好意の対象を異性と決めつけていたのだ。

 恋を知らないのに、恋をする相手だけは知っているふりをした。

 無知も甚だしい。罪であり罰である。


 一つ言い訳をするとするなら、わたしとてテレビで見るようなイケメン俳優に黄色い声をあげることもある。お母さんと男のアイドルグループについて語り合うこともあった。

 まあ可愛い女の子のアイドルを見てもテンションは上がっていたし、女優さんの顔面偏差値の高さに鼻息を荒くすることも、あるにはあったのだが。

 柚月美織を好きになったのは、なってしまっていたのは、何かの間違いだろうと、実のところ今でも思っていたりもするのだ。言い訳がましくも。

 だがどれだけ思い込んだところで、自分の中にしかない真実はいつか暴かれる。現実として、目の前に現れる。


 いつか見た夢。あの時わたしは、あの夢を何かの間違いだと言っていたが、信じられないことにそれは当たっていたらしい。

 周りにいる、手ごろな男の子。そりゃあ自分の本心を隠すには、都合のいい存在だろう。おまけにあの夢の前日は、樋上くんと相合傘で帰ったし。初めて友達とした相合傘がよほど嬉しかったらしい、過去のわたしは。


 異性という名の隠れ蓑を用意してまで見ないフリをしていた気持ちは、とうとう確かな自覚をもってしまったわけだが。校外学習の日、美織に手を引っ張られた時に。

 すなわち。

 いまや同性愛についての問題は、はわたしにも無関係な話題ではなくなってしまったのだ。

 そもそもこの恋が叶わなければ、同性との結婚に悩む必要なんてないのだけれど。わたし自身、結ばれようだなんて考えてないし。

 美織がわたし同様、同性を好きになるタイプの人間である保証もないし、仮にそうであったとしても、美織にはわたしを好きになる理由もない。低確率の二乗、もし恋の方程式があったとして、それに当てはめたとしたら、ほとんど0に等しい数字が出ることだろう。


 始まる前から終わっていた恋の物語。思い出にすらなりきらない、ただの日常の風景の塊。

 どれだけその一つ一つが愛おしくても、きっとわたしには届かないものだから。

 だから今日もわたしは、暗い部屋で一人抱き枕を抱えているのだ。


 テスト初日。科目は現代文と化学。どちらもいつも以上に勉強したはずなのに、結果は芳しくなかった。

 理由は分かっている。どれだけの時間を勉強に費やそうと、その勉強に中身が無ければ勉強してないも同然なのだ。集中しきれていなければ、点数なんて取れるはずもない。

 しかしまあ、この環境で勉強に集中しろと言われても、およそ不可能だとわたしは言い訳を述べるけれど。

 なにせ美織は二日前の土曜日に我が家に泊まり、昨日も夜までは一緒に勉強していた。好きな人と同じ部屋で勉強なんて、しかも教えるとなれば自然と身体の距離も近くなるし、脳が煩悩にまみれてしまうのも仕方のないことだろう。

 おまけに、美織の髪やら体やらの甘い、妙な気分にさせてくる匂いがこの部屋には染みついて、本人がいなくてもその存在を近くに感じてしまうし。


 そんなわけでわたしは、期末テストが始まっているにも関わらず、美織に貸した服を抱きしめ(洗濯はした。そこまで人間を捨ててはいない)、彼女の残り香に酔いしれていたのであった。


 着々と、『恋』の病が進行していくのを感じながら。

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