恋は沈黙――⑧

 前回のあらすじ。


 好きな人と共通の友人を遊びに誘おうとしたら、わたしが美織に誘われた。以上。


 というわけでせっかくの七夕にも関わらず、相変わらず曇天広がる大空を仰ぎながら、わたしと美織はショッピングモールに来ていた。

 樋上くんはいない。というか、いてもらっては困るらしい。急に連れてこられたので、その理由もここに来た理由もまだ聞かされてはいないが。


「それで、何買うの?」


 わざわざ学校から離れたところにあるショッピングモールまで来たのだ。当然、目当てのものがあるはず。


「もしかして星火、知らない?」

「なにが?」

「明日、幸彦の誕生日なんだけど」

「…………」


 初耳だった。


 そもそもこのわたしに、誕生日を祝うほど親しい友人が出来たのはこれが初めてだ。わたしのあずかり知らぬところでは誕生日を祝うのは一種の礼儀となっていることこそ知っているが、礼儀を払う仲の人もいなかった。知識こそあれど、経験はなかった。

 もちろん二人の誕生日の際には、何かしらは用意しなければならないと思ってはいたが――またもやわたしは、肝心なことを忘れていたらしい。樋上くんの誕生日を聞くことを、すっかり忘れていたのだ。

 ちなみに美織の誕生日は知っている。入学式の日に聞かれて、問い返した形だ。12月31日。

 さらにちなんでおくと、わたしは1月1日生まれ。出席番号だけでなく誕生日もほとんど変わらない。もはや運命的ですらあった。

 


「……なるほど、それで誕生日プレゼントをって訳ね」

「そそ。私だけだと視野が狭いからさ、星火にも手伝ってほしくて」

「いいよ、わたしもプレゼントはしなきゃだし」


 それにわたしの方こそ、何を贈ればいいのか分からないし、メリットも多くある。棚から牡丹餅が転がってきた気分だった。


 というわけで、捜索開始である。


「でも、わたしじゃ力になれないと思うけど」


 悲しいかなわたしに、贈り物を選ぶセンスはない。した事もないし。


「いいのいいの、私が適当に選んで、オッケーかダメかだけ言ってくれればそれで」

「それくらいなら、まあ……」


 不安は残るが、しかしここまで着いてきてしまった以上、協力しないわけにもいかないし。


「適当に雑貨屋でも見よっかなー」


 美織はふらふらとあちこちを見渡しながらも、確かな足取りで進んでいく。

 ゆっくりと彼女を追っていると、ふと吹き抜けのフェンス代わりに設置されたガラスに映る自分が目に留まる。


 手入れのされなかった畑のように入り組んだ髪、生まれた時から手放せないメガネ。お世辞にも整っているとは言えない顔立ち。スタイルだって悪い。運動をしないので、突き出てこそはいないもののくびれと呼べるものはおよそ存在しえない。

 胸だけ人並み以上にあるかもしれないが、しかしそのメリットを軽く超越してしまうほどにわたしという存在にはデメリットが付きまとうし。


 誰かに好かれることも、好かれる理由もない。青色に熟れた春とか、全部諦めてたはずなのに。


 どうしてわたしは、誰にも気づかれないように心を躍らせている――?


 自己嫌悪と自画自賛。自己矛盾の狭間で、今も確かにえずく何かが、そこにあるのだ。

 泣きそうなのに嬉しくて。苦しいのに楽しくて。寂しいのに、今のままでいたくて。

 恋をして(気づいて)二日で言うべき言葉ではないが、こんな気持ちを味わうくらいなら、恋なんてするんじゃなかった。いっそのこと、ずっと気づかないままでいられたら、そんなに幸せなことはなかっただろう。

 授業中もちらちら見ちゃうくらい気になってて。部屋に一人でいるとずっと君のことを考えてしまうくらいにダメになってて。どんな時も瞼の裏に浮かんでくるくらいに、好きになっちゃってて。


 こんな気持ちは知らない。矛盾に満ち溢れた、こんな気持ちは。


「星火? どうしたの?」

「なんでもない!」


 いつのまにか止まっていた足を、引きずるように前に出す。

 最後に見た、ほんのりと朱に染まった自分を、忘れたフリをしながら。

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