ドラゴンのお医者さん

舞台はある一点以外は現代とほぼ変わりがない英国。その一点というのは、この世界では人類が二百万年前から竜と共に暮らしているということ。

そして物語は本作の主人公であるマリアが勤めるロンドン王立竜医療センターの元に一頭の騎竜が運び込まれるところから始まる。急患自体は決して珍しいケースではない。だが、困ったことにその日センター長をはじめとする上役の医師が学会に出ていて不在、そして運び込まれた竜が第一王女の愛竜であった。出身階級が重視される竜医学会で、平民出身ながら優れた腕を持つマリアは周囲から疎まれてばかり。そこへ王女の愛竜という政治的問題にもつながりそうな患者が現れたせいで、同僚である公爵令嬢アデレードとの関係までギクシャクしてしまい……。

扱っている動物こそ竜だが、靭帯断裂を治療する様子は決してファンタジー的なものではなく現実の医学に基づいた丁寧な考察で成り立っており非常に興味深く、また犬や猫ではなく竜が人間の友として寄り添ってきた世界特有の文化描写も面白い。そして何より出自は異なれど竜のためにひたむきに手術に挑むマリアとアデレードの関係が素敵な一作だ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)