乗用竜の前十字靱帯断裂症の治療法としての脛骨高平部水平化骨切り術の開発と検討

阿部登龍

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 人類史上、最初にして最重要の邂逅は、約二百万年前、アフリカの大地において訪れた。

 ただし、二百万年というその数字は、人類誕生の定義の問題でしかない。ホモ属の発祥を幕開けとするなら、二百万年前のタンザニア、オルドヴァイ――たしかにその時、その場所こそグラウンドゼロだ。けれど彼ら最初期のヒトの背後に陸続と列をなす猿人たちをもまた人類と呼ぶならば、邂逅の時はどこまでも遡ることができる。

 かれらはヒトのはじまる遥か以前から地球上に君臨し、ゆえに人類史のはじまりこそヒトとかれらの出会いだった。邂逅より二百万年。家畜化より数えればわずかに二万と数千年。地球史においては須臾の間に過ぎないけれど、かつて現生人類ホモ・サピエンスほどにかれらと絆を繋いだものはなかった。そしてヒトとこれほどの絆を築き上げた生物もまた、他になかった。

 いびつに尖らせた石塊を握る二足歩行の猿と、

 後頭に角の冠を戴き、あまねく全地全天を版図とした霊長の王。

 二者の片割れ――器用なヒトホモ・ハビリスの裔として、いま、マリアは石器に代えてステンレスのメス柄を手にしていた。そのちっぽけな道具には、最初の邂逅が最初のヒトにとってそうであったのと同様に、マリア自身の全人生が賭けられていた。

 ただ、もう一者の様相は異なった。

 ステラと名付けられた一頭は深い麻酔ねむりの中だった。

「それではこれより、乗用竜の前十字靱帯断裂症の整復手術をはじめます」

 アデレードが、記録用カメラと、ガラスの向こうの見学者たちに向けて告げた。

「お願いします」

 陽圧手術室に、緊張を含んだ唱和が返る。

「お願いします」


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