萬葉調歌謠 ― かみつよのうた ―

鎭雨

遠（とほ）つ代（よ）に天降（あも）りましけむ

大神（おほかみ）の宣（の）らしましけむ

命（みこと）以（も）て斯（か）くはあれやも

蜻蛉洲（あきづしま）豐蘆原（とよあしはら）の中（なか）つ國（くに）

瑞穗八島（みづほやしま）に

時じくも雨し降らしめ

民草（たみくさ）の靑人草（あをひとくさ）に寇（あた）なひて

なづさはしめて

苦しびの窮（きはみ）構（かま）へて

祟（たゝ）らむと然（しか）く思（おぼ）せや

うつたへに而（しか）くあらずは

掛けまくもあやに畏（かしこ）し

謂（い）はまくもあなに齋忌（ゆゝ）しも

大山（おほやま）の阿夫利（あふり）の神を

拜（をろが）みて禱（の）まひ申（まを）さく

五月雨（さみだれ）の時にはあらず

秋立つと言へる時そも

筑紫（つくし）ゆり陸奧（みちのおく）まで

東西（よこさま）に憑（つ）かひ居給（ゐたま）ふ

畏（かしこ）しや龗（おかみ）の大神（おほかみ）

な荒（すさ）びそ柔（にき）び坐（いま）さね

美（うま）し國（くに）大倭島根（やまとしまね）に

卒爾（ゆくりな）くな降らしめそね

害惡（まがごと）をな寄（よ）さしめそね

平（たひら）けく靖（やす）けくとなも

大神（おほかみ）の御前（みまへ）拜（をろが）み醜男（しこを）吾（あ）が告（の）る

隼人（はやひと）の俳優（わざをき）の如（ごと）民草（たみくさ）を溺（おぼほ）し召（め）すや鎭（しづま）り賜（たま）へ

◇長歌幷短歌

卽興歌（にはかによめるうた）なれば反歌（かへしうた）は后（のち）に幷（あは）せつ

拙（つたな）き所も少なからねば折〻（をり〳〵）に推敲（あらた）め繕ひつゝあり