第49話 戦いの果てに

 強力な雷の直撃を受けた圭は、目を閉じたまま微動だにしない。

皆が固唾を飲む中、恐る恐るドレイクが口を開く。


「フィッツ、奴は死んだのか?」


「むしろアレを喰らって生きてると思うか?」


「だよな、生きてるほうがおかしい、さすがフィッツだ」


 フィッツとドレイクが緊張しながらも会話する。

 と、その時。


「倒れたフリして50年! 今こそ立ち上がる時!

俺の中のパンツが叫ぶ! 奴を倒せと真っ赤に燃える!

シャイニーング・パーーーーーンツ!」


 圭がしちゃいけない発言をかまし、その両手から大量の白いパンツが生成される。

 使役のスキルがかけられた100枚を超えるパンツが、大作映画の鳩のように羽ばたく。


「な、なんだあれは!」


 鳥のように自由に飛ぶパンツが圭を中心に広がる。


「より美しく、より高く、宝石のように輝いて。

俺、やっとわかったよシエル、パンツは心で飛ばすんだって。

悔しいな……、最後の最後にそれがわかるだなんて。

死ぬ前に、このパンツをリーゼに見せたかった……」


 圭が何か悟ったようである。


「まあ、嘘だけど」


 悟ってなんかいなかった。ただのノリテンションらしい。


「よっと」


 掛け声とともに起き上がった圭は、手にリーゼパンツを出した。


「待たせたな、こっからが俺のターンだ、これが俺の能力、ザ・パンツだ!!」


 もはや言った者勝ちである。テンションって怖いよね。


「俺の変態力は53万だ! 俺はあと1回、1回だけ変身を残しているのだよ」


 圭はリーゼパンツを頭に被り、予告通り変身する。

 誰になりきってるかは、敢えて言うまい。

 誰しもそういう時期はあるのだ。好きにさせよう。


「おほほほほ、これでわたしの変態力は100万を超えました。

許さんぞ! 虫けらども! じわじわと頭ナデナデしてやるっ!!(注・圭はグロシーンが苦手です)」


「なあ、あれって今女の間で流行ってる下着じゃないのか?」


 気付いた兵士がそう声を発した。


「むっ、よく見たらウチのカミさんがパンツって言ってたやつだよ」


「なあフィッツ、あのパンツってなんだ」


「俺も知らないが、妻と娘がパンツって下着を買ったと騒いでいた。

まさかあの頭に被ってるのが女の下着だというのか」


「変態だ!」


「変態だよ」


「度し難い変態がいるっ!」


 フィッツ一派に変態と認定された圭だが、そんなものは今更だ。


「なあ、みんな、パンツにツッコむ前にさ、人間に変身した俺に驚かないの?」



「「「「「「あ!」」」」」



 常軌を逸した展開の連続に反応が追いつかなかったが、やっと変身した圭に驚くフィッツ一派。


「貴様、その姿はなんだ! 幻術の魔法か!」


「幻術? そんなものはないよ、コレが俺の本当の姿だ。

愛する娘のパンツを被り、お父さんは、真お父さんになったのだ!」


「「「「「「「「「「変態を超えた変態がいる!」」」」」」」」」」


「さあそろそろクライマックスと行こうか。

薙ぎ払え!」


 圭が右手を振り下ろす。

 その背後に口からビームを出す劇画タッチのおっさん(ガロン村長)の絵が見えたとか見えなかったとか。


 宙を舞っていた大量のパンツがフィッツ目掛けて飛んで行く。


「うあああああああああ!」


 魔力切れで成す術もなくパンツまみれになるフィッツ。

 全身に白いパンツが貼り付いていく。

 顔にもパンツが貼り付き息ができなくなり、のたうちまわる。


「フィッツ!」


 ドレイクがフィッツを助けようとするも。ドレイクにもパンツが襲いかかる。

 直後に出来上がる2体の白いミイラ。

 もがき、よじる2人は動く芋虫のようだった。


「パンツ自体に攻撃力は無くても、やっぱ使いようだよな。

窒息死するまえに止めるか」


 パンツが2人から離れ、その周りを飛び回る。


「かはっ、はあはぁ! ぐっ!」


 窒息の苦しみから開放された2人が、顔を真っ赤にしながら息をする。


「どうだい? これ以上続けても無意味だと思うけど。

潔く負けを認めてくれないかな」


「はあはあ、誰が貴様なんぞに!」


「死にかけで言ってもさ、ダメだと思うよ」


「くっ、ふざけるなよ小僧、貴族であるこの俺が負けるなど! あってたまるか!」


 最後の最後に力を振り絞った炎の一撃が圭の顔面にヒットする。

 頭に被ったパンツだけが燃え、変身が解け魔族の姿へと戻る。


「あーあ、リーゼパンツが燃えちゃったじゃないの。

これ高いんだからね、15歳のパンツだよ! その意味わかってる?」


 フィッツの胸倉を掴み、引きずり起こす圭。

 起こすアクションで頭突きを喰らわす。


「ぐおっ!」


「今までどれだけ人間を苦しめ、どれだけの亜人を殺してきたか、わかるよな。

お前の独裁のせいで、この領地の住人がどれだけ不幸になったか。

その命をもって償ってもらうぞ」


「た……頼む! 殺さないでくれ!」


 絶対的な魔族の力にフィッツが折れた瞬間だった。


「お前は今まで命乞いをした奴を、殺さなかったことがあるか?」


「俺は貴族だぞ! 貴族が領民を好きにして何が悪いっ!

金か? 金なら幾らでも出す! な? わかるだろ?」


「わかんねーな」


「わかれよ! 頼むから殺さないでくれ……。

それにあれだ、王だ! 貴族を殺したら国王が黙ってないぞ!」


「なあ、普通に考えてさ。

田舎貴族の首と、魔族との敵対。国王ならどっち取ると思う?」


「ぐっ。そんな……」


 フィッツの目から光が消えた。

 スーツパンツが濡れ、地面に黄色い水が広がっていく。


 その姿を遠巻きに見ていた兵士達が次々に武器を手放した。


 領主が負けた。


 ドレイクもへたりこみ、放心状態だ。

 掴んでいた胸倉を放し。その場に崩れ落ちるフィッツ。

 飛ばしていたパンツを手に収納し、脱いでいた旅服を着る圭。


 そしてフィッツのそばに立った圭はその頭を踏みつけ、言葉をかける。


「これで終わりだと思うなよ、俺にはもう一つ目的がある。

地下室を見せてもらおうか」


 圭の言葉に「くっ、わかった」とだけつぶやくフィッツだった。

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