第37話 旅支度

 3時間後に村へたどりついた圭は、村長の家に入った。


「村長さん、ただいま」


「おおブルーレットさん、早かったですね」


「うん、思ったよりも早く着いたよ、これ、お土産の豚の丸焼き。

それでひとつ相談があるんだけどさ。

今夜はリーゼがこの村に居れる最後の夜なんだよね。

収穫の時みたいに、夜みんなで食べない?」


「それはいいですね、ブルーレットさんにもお世話になりましたし。

村の皆で盛大に見送りの食事をしましょうか」


「リーゼも喜ぶと思うよ」


「ではさっそく皆に伝えてきましょう」


「あ、村長さん、それが終わったらサトウさん呼んでくれる?

あと女性の中で村のまとめ役みたいな人も居たら呼んでほしい」


「わかりました、場所はここでいいですか?」


「うん、ここで待ってるよ」


 村長の家で待つこと30分くらい。

 村長はサトウと1人の中年女性を連れて戻ってきた。


「おまたせしましたブルーレットさん」


「ブルーレット、村を出るって本当なのか?」


 サトウが開口一番、圭に聞いてきた。


「うん、明日村を出るよ。サトウさんにも後の事を色々とお願いしたくてね。

少し話をしようと思ってさ」


「そうか」


「ブルーレットさん、こちらが女性の代表シャーネです」


「あー、猪狩ってきたときに捌いてもらった人だね」


「はい、シャーネと言います、この度は村の為に色々として下さって、ありがとうございました」


 シャーネは深々と頭を下げた。


「まあ、今回の件で想いはそれぞれあると思うけど、それは一旦置いておこう。

これからの村について3人に話しておきたいんだ」


「これからの事ですか?」


「うん」


 圭はコートのポケットからお金の入った袋を取り出した。


「これが今この村の全財産だ、金貨が87枚に銀貨が200枚くらいだ」


「マジか、俺こんな大金見たことねーぞ!」


「いや、でもこのお金はブルーレットさんが毛皮を売ったお金では」


「毛皮はみんなのものだ、狼を捌いて毛皮のなめしをしたのは村の人だろ?」


「確かにそうですが。でもこれを村がもらうわけにはいきませんよ」


「だからね、村長さん、その考え方をそろそろ変えよう。

約束したよね、この村を発展させるって。

そのためにはお金が絶対必要になる。わかるよね」


「そう言われましても」


「ただ俺も旅に出るのに色々と物入りだから、この中から金貨30枚と銀貨100枚持っていくよ」


 金貨30枚と銀貨100枚、それは日本円で1000万円と同額になる。


「残りのお金は村のみんなで使ってくれ。

サトウさん、今の話で分かるとおり、村長さんは遠慮しすぎる。

このお金は無理やりでもおいていくから、サトウさんが管理してくれ」


「俺が? いやちょっとまてよ、ブルーレット。

俺がどんな人間だったか知ってるよな?

金に目がくらんで変な気を起こすとか思わないのか?」


「ああ、でもお金の管理に関してこれ以上の適任はいない。

村の発展のために一番お金を上手く使える人選だと思う。

村の中で一番街の事を知ってるし、必要な物の売買も誰よりも上手いはずだ。

それに俺はあの時、村長さんに仕えると言ったあの言葉を信用してる。

仕事人のアニキさんは死んだんだよな」


「まったく、アンタはどこまでお人好しなんだ。

誓って言うよ、村長さんを裏切るような真似は絶対にしない」


「うん、頼んだよ」


「お金の使い方はざっくり説明すると、まずは徴税対策だ。

苦しそうな年だけ現金で支払う。

あとはこの村の生活水準を街と同じくらいに上げる。

環境設備の投資だね、大工とか職人を雇って家を建てたりとか。

そして馬車を買ったりして、村をもっと便利にする。

村の人口を増やすために必要なことだ

今思いつくのはそのぐらいだ。

そしてシャーネさんには女性側の意見をまとめてもらいたい。

男だけじゃ知恵にも限界がある、生活基準を上げるために必要なもの。

どんどん意見を出してほしい。

村長さん、サトウさん、シャーネさん、最終的にはこの3人でお金を使うか決めてもらう」


「村の為にそこまで考えていただけているとは。

ブルーレットさんの言う通りにいたします」


「ああ、あとのことは任せてくれ。

安心してリーゼさんとイチャイチャの旅に行ってこい」


「いや、そういう旅じゃないから!」


「私も、村の為にできることなら何でもします」


 村長、サトウ、シャーネ、3人の同意を得て話はまとまった。


「村の為のお金だけど、計画的に使ってね。

もし足りなくなったら、毛皮を売ればいいから。

街のブラウン服店に話はつけてある、金貨30枚で買い取ってくれるから」


「はい、ほんとうに何から何まで、ありがとうございます」


「それじゃ、俺は家に戻るね」


 圭は金貨30枚と銀貨100枚を取り、リーゼの家へと戻った。


「リーゼ、準備はどう?」


「あ、ブルーレット、おかえり、必要なものはだいたい積んだよ」


「そうか、どれどれ」


 荷馬車の荷台を覗くと、床に3枚重ねた狼の毛皮がクッション代わりに敷き詰められ。

 収納タンスが1つ、箱に入った食器や調理器具、布団1組がのっていた。

 枕が2つあったことにはノーコメントの圭。


「旅だけど、もう馬車の中で生活が完結してるな、これなら野宿でもいけるか」


「でしょ、これはもう動く家だよね、2人の動く愛の巣だよ!」


 リーゼが何か不穏な事を言った気がしたが、聞かなかったことにした。


「あ、そうだ、角忘れてた」


「角?」


「うん、俺の非常食」


「ああ、あの骨みたいなやつね、あれも持って行くの?」


「持ってく」


 今はササキの家になってる元圭の家に行き、ベッドの下から一角狼の角8本を回収する。

 それを荷馬車に積んで、圭の準備は完了した。


「あとはそうだな、御者台にクッションか何かを置きたいな。

雨が降っても水を吸わないような物がいいけんだけど」


「それなら皮だよね、綿詰めて、皮を打ち付ける?」


「そうだな、そうしようか」


 小一時間で御者台の改造も終わり、その頃には広場に食べ物の匂いが漂い始めた。

 夕暮れの広場にはかがり火が用意され。

 収穫の時と同じようにいくつものテーブルが並べられ、そこに料理が運ばれていた。


「リーゼ、今日は村で最後の夜だ、みんなと食べる最後の食事だ。

お別れの挨拶ちゃんとしろよ」


「すごい、これ、ブルーレットが?」


「俺は村長さんにみんなで食事しようって言っただけだ」


「ブルーレット」


 圭に抱きつくリーゼ、その頭をなれた手つきで撫でる圭。


「ありがとう、凄く嬉しいよ」


 その夜は皆でおそくまで、食べて騒いでのお祭りだった。

 村長の音頭で始まり、圭とリーゼの別れの挨拶で締めくくった。

 村人のほとんどが涙を流し、圭への感謝と、リーゼとの別れを惜しんだ。

 この時、一番泣いたのはなぜかササキだった。


「リーゼちゃん! 幸せになるのよ、結婚式には呼んでね!

いいブルーレット、リーゼちゃん泣かせたらぶっ殺すからね」


 もうなんなんだこのオカマは、酔っ払ってないよね?



 そしてリーゼと一緒に家に戻るとき。

 圭は「ちょっとひとりにさせてくれ」と、人気のない小川までやってきた。


 この村での自分の役目は終わった。

 旅に出る前に、やらなきゃならい事がひとつあった。


 ステータスの確認である。


 ポイントを見るのが凄く楽しみであり。

 そしてまた新たなスキルを見るのが怖い。

 複雑な気持ちでステータスを呼び出した圭は「おお!」と驚きの声をもらした。

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