第34話 圭の想い
「信じる信じないはリーゼ次第だけど、今から話すことは、俺にとっては全部本当だ。
まず、俺は元々人間だ、こことは違うすごく遠い国、日本って国にいた。
そこで俺は罪を犯したんだ。取り返しのつかない罪を。
そしてその罪を償うために、魔族になることを選んだんだ。
これはもう呪いだよな、人間から魔族になるなんて。
でもこの罪を償うにはそうするしかないんだ。
俺の罪を償う方法はひとつ、この世界の人間を魔族の脅威から救うこと。
魔族に対抗するには同じ力を持った魔族でしか太刀打ちできない。
だから魔族になるしかなかったんだ。
魔族からこの世界を救うことができたら、俺の呪いは解ける。
本当の意味で人間に戻ることができるんだ」
「そうなんだ、やっぱり人間だったんだね」
「俺の目的は魔族を倒すこと、いや、魔王かな。
だからこの先の旅がどれだけ危険かわかるだろ?
魔族の体になったからわかるけど、この能力は人間のそれとはレベルが違いすぎる。
もしリーゼを連れていったとしても、魔族相手に守りきれる自信がない」
「うん……」
「そしてもうひとつ、リーゼが知りたがってた俺のスキルだ。
いまのとこ俺のスキルは3つ。
1つ目はパンツを作れる。
2つ目はパンツとかの衣類を収納できる。
そして3つ目は、パンツを頭に被ると本来の人間の姿に戻れる。
ただし、そのパンツには条件があって、女が履いたパンツじゃないとダメなんだ。
完全にふざけた呪いだろ?
ほかにもこれから覚えていくスキルがあるけど。
おそらく似たり寄ったりの変態じみた制限のかかったスキルのはずだ。
ほんとに厄介だよこのスキルは。
ちなみに変身できる時間は、パンツを女が履いた時間の20分の1。
リーゼから貰ってるパンツは、24時間履いてるから、変身できるのは1時間ちょっとだ。
徴税官の時に人間の姿を見たろ? あれがパンツの力を使った姿だ」
「それじゃ幻惑の魔法って言ってたのは」
「嘘だよ、説明しにくいから、それらしい嘘ついた」
「そうか、あれが、ブルーレットの本当の姿……」
「この先、魔族とやりあうには、おそらく大量のパンツが必要になると思う。
そもそもこんなスキルが用意されてる時点で、魔族の姿だけじゃダメなはずだ。
人間の姿じゃないとダメな制約がこれから出てくると思う。
それも全部ひっくるめて、俺にかけられた呪いなんだ。
今はまだ魔族に出くわしてないから余裕があるけど。
実際魔族に会ったら、今みたいに誰彼助けてる余裕なんてなくなるかもしれない」
「そうだね、うん。
ブルーレットの目的は魔王を倒して、人間に戻ることなんだよね?」
「まとめるとそうなるな」
「そしてこれからもパンツが必要になる」
「ああ、そこは触れないでよ」
「わかった、やっぱり一緒に行く」
「え? ちょっと、話聞いてた? 危険だから連れて行けないって俺話したよね?」
「うん、それでも行く。それでもし私が死ぬことになっても後悔はしない。
いつかブルーレットが人間に戻ったときに、私はその隣に立っていたいの。
それに私の履いたパンツが必要なんでしょ?
だったら私を使ってよ、恩返しさせてよ」
「俺が魔王を倒してから、村に戻るってのじゃダメなのか?
必ず村に帰るから」
「ダメ。ねえ、ここまで言ってわかんないの?
魔族とか人間だとかそんなことどうでもいいの!
私はブルーレットと一緒にいたいの! 添い遂げたいのっ!
わかれよバカ!」
「バカですか」
「うんバカ、でもそんな変態に惚れた私もバカだよ」
リーゼから視線を外し、天井をじっと見つめる圭。
もしリーゼの兄が生きていて、村に家族が揃ってたら。
リーゼはこんなこと言わなかったのではないだろうか。
大切な家族が1人1人といなくなり。
そして自分を救ったヒーローが目の前に現れた。
寄りかかれる家族に代わるものが現れた。
それに自分の人生を預けたい、そう思ってしまっただけではないのか。
惚れたと勘違いして。
弱い子供が、この先を生きていくのに強い者にしがみつく。
それはとても当たり前のことだ。
リーゼは「助けた責任を取れ」と言った。
考え方を変える。
1人を救えなくて万人を救えるのか?
答えは『否』だ。
1人さえ救えない者にこの世界を救うことなどできない。
やりもしないうちから、出来ないと言うのは逃げだ。
人の命がかかってるから連れて行けないだと?
いつから俺は万能の神になった。
これからも魔族に殺される人間は後を絶たないだろう。
その全てをとめられるほど俺は万能なのか?
違う、そう思ったとしたらそれは驕りだ。
なら手の届く範囲だけでも、守ればいい。
手の届く範囲で、この運命に抗えばいい。
結果として全ての人を救うことは出来ない。
でも多くの人は救える。
難しく考える必要なんてなかった。
「ケイ・オクダ、俺が親から貰った本当の名前だ、人間の時の名前」
頭の中を整理したら、気が楽になって、気が付いたらそんな台詞を吐いていた。
「ケイ、それがブルーレットの本当の名前……」
「ブルーレットは俺が魔族になった時に自分で付けた名前だ。
もし、俺が目的を達成して、その時に隣に立っているのが、リーゼだったら。
ケイと呼んでくれると嬉い」
その言葉に全ての返事が込められていた。
意味を察したリーゼの顔が思いっきり笑顔になる。
「うん! わかった!」
勢いよく圭に抱きついたリーゼは、そのまま腕の中で幸せをかみしめる。
この幸せを絶対に手放したりはしない。
たとえ魔王が敵だろうと、そんなの関係ない。
添い遂げてみせる。私の人生はこの男のためにあるのだ。
「これからもよろしくね、ブルーレット」
「ああ、これからもよろしくだ」
2人は抱き合ったまま眠りについた。
そして夜が明け朝。
「おはようリーゼ」
「うん、おはようブルーレット。
なんか照れるね、あはははは」
照れ笑いのリーゼをぼんやりと見つめる圭。
これが朝チュンってやつか!
これがリア充の朝チュンってやつか!
爆ぜろ俺!
なんてな、そんな勘違いには騙されませんよ。
伊達に童貞25年もやってないよ。
イケると思ったら勘違いだったって自己嫌悪。
その数は両手じゃ足りないんだよ。
『あ、ゴメン、勘違いさせちゃったね、そういうつもりじゃなかったんだけど』
思い出すだけで死にたくなる!
いい加減学習するさ。
リーゼの言った「惚れた」だの「添い遂げる」だの。
寄りかかれる相手に安心しているだけの、勘違いかもしれないのだ。
いずれ本人も気付くかもしれない。
それまでは『保護者』を貫くと決めた。
25にもなってこっ恥ずかしい勘違いなど御免だ。
旅が終わってもリーゼが同じ事を言ったら、その時は真剣に考えよう。
その時まで俺はお父さんかお兄さんだ。
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