第33話 リーゼの想い2

 

 部屋に戻った圭とリーゼ。


「なにそれ、すっごいキモイんだけど」


 湯上りに髪を拭きながらベッドに腰をかけるリーゼと、その隣で作業をしてる圭。

 リーゼがドン引きしてるのは、圭が手からパンツを出す様子だった。

 蝋燭の灯りに照らされノスタルジックな部屋が、雰囲気台無しである。


 改良に改良を重ね。パンツ量産のスタイルを確立した圭。

 その方法はしごく単純で、手の平を下に向けた右手を上にし。

 そこからパンツを連続で高速生成する。

 それを下の位置に出した左手で受け止め収納していく。

 それはマジシャンが見たら裸足で逃げ出す曲芸だった。


 白、赤、青、ピンク、グレーと5色、100枚ずつ出すのに10分もかからなかった。


「よし、500枚完成!」


「お疲れさまと言いたいけど、キモイよそれ」


「うん、俺も思うけど、これが一番時間がかからなくて楽なんだよ。

もっと誉めてよ。俺、頑張ったでしょ、キモイけど」


「はいはい、凄いよ、変態じみてる凄さだよ」


「そういえば、村でのパンツはどんな感じ? 広まってる?」


「あ、そうだ、もっとパンツ欲しいかも。

800枚はあっというまに無くなった、みんな凄い気に入ってるよ。

おばちゃんとかお婆ちゃん達も噂を聞いて、履いてみたいって言ってた」


「そうか、さすがパンツだな、パンツ大使としては嬉しいぞよ」


「パンツ大使? パンツ伝道師じゃなかったの?」


「気分だ気分、こういうのはツッコんだら負けだ」


「それでね、若い子は今の大きさでいいんだけどさ。

体が大きい人にはちょっと小さいかもなんだよね。

大きさって変えられるの?」


 リーゼの言う通り、村には農婦よろしく太ったおばちゃんもちらほらと居た。

 確かにそれでMサイズはちょっとムリがあるな。


「ああ3種類出せるよ」


 圭は手のひらからパンツを3枚出した、S・M・Lサイズのパンツ。


「これがいつもの普通サイズで、こっちが小さいの、そしてこれが大きいの」


「おお、凄いね、小さいのもあるんだ、この大きいのならみんな履けそうだね」


「村に帰ったら大きいのも作るよ」


「うん、ありがと、みんな喜ぶよ」


 タオルで髪を拭いたリーゼは、指先に火魔法を出した。

 さらに火魔法で熱した空気を、風魔法を使い髪を包んでいく。

 熱風に髪が踊り、髪の毛が乾いていく。

 魔法で再現されたドライヤーだ。

 初めてみた光景に圭が息を飲む。


「凄いな。火と風が使えるとそんなこともできるのか。

二つも魔法が使えるとか、凄いな」


「え? 普通は二種類使えるもんだよ」


 何も知らない圭にリーゼが教える。


 スキルとして使う魔法には系統があり

 火と風、土と水、そして光と闇。

 この3系統のどれかの組み合わせが素質として、備わるそうだ。

 火を起こす風、土から湧く水、この組み合わせはスタンダードで、そのスキル保持者は約半々。

 そしてめったに居ないがごく稀に、光と闇の魔法が使える人間が生まれるらしい。

 光は回復系統で、闇は呪いや負の効果を持つ魔法。


 日常生活を送るのには火と風が便利だし。

 農業を生業とする人には土と水が重宝される。

 光と闇の適正を持った人間は、教会に僧侶として引き取られるか、冒険者として引っ張りだこになる。


「なるほどな、一種類だけかと思ったら、二種類セットが普通だったんだな。

パンツしか作れない俺って、なんなんだ?」


「はははは、わかんなーい」


「さて、そろそろ寝るか、明日も忙しいしな」


「うん、寝よう!」


 2人して1つのベッドに入り込む。

 ここまで来て、今更抵抗する圭ではなかった。

 最終的にはパンツを人質に取られるから、抵抗するだけ無駄だと学習したのだ。


「ねえ、ブルーレット」


「ん?」


「私ね、この街よりもずっと北の村で育ったの」


 寝る前にリーゼが独白する。


「そこは寒くてね、冬になると雪がたくさん降って。

お父さんは私が6歳の時に、猟に出て帰ってこなかった。

お母さんもいたんだけどね、私が8歳の時に病気になって。

運悪くたまたま領地全体が不作の年になっちゃって。

口減らしをするのに、村長に私と兄が村に残るか、お母さんが村に残るか。

どっちかを選べって言われたの」


「そんなことがあったのか」


「お母さんは病気で動けないし、それにやっぱり生きていて欲しかったから。

兄と一緒に村を出ることにしたの」


「そうか……」


「北よりは南にいけば、暖かいかなって、この街にたどり着いたけど。

街も不作であまり食べ物がなくてね。

兄と仕事探して、色々やってみたけど、口減らしにあったのは私達だけじゃなくてさ。

まわりにもそんな子供が沢山いたんだよ。

仕事も寝床も食べ物も、兄1人ならなんとかなったかもしれないけど。

小さい私はお荷物だったはずなのに、兄は私を捨てずにこの街に見切りをつけて、別の場所を探したの。

そして辿り着いたのがエッサシ村」


「なるどほど、それで村長さんに出会ったのか」


「うん、多分、運が良かったんだど思う。

今普通に考えたら、受け入れてくれる村なんてないはずなのに。

村長は受け入れてくれた」


「村長さんらしいね」


「だからね、私にとってこの村は、すごく大事な村なの。

それを救ってくれたブルーレットには本当に感謝してる」


「俺はできることをしただけだ。

村長がリーゼを助けたように、俺が村を助けたのはたまたまの運だ」


「ねえ、ブルーレットはどうして魔族なのに人間を助けるの?」


 真っ直ぐな瞳で圭を見つめるりーぜ。

 ベッドの中でリーゼが圭の手を握る。


「こんなに人間の事を理解してる魔族ってなんなの?

ブルーレットは何をしようとしてるの?

何か理由があるなら、背負ってるもの全部私に教えてほしい」


 やはりこの子にはそこまで見透かさされていたのか。

 しかし圭は躊躇った。

 きっと教えてしまったら、この子は旅に付いてくると言うだろう。

 この先の旅にはおそらくパンツが必須になってくる。

 だからこそ役に立ちたいと言うはずだ。

 この先に待っているのは魔族との戦争。

 人間を守るために避けて通れない道。


 自分ひとりならまだいいが、普通の人間を巻き込んで守りきれる自信なんてない。

 今の自分から見たら、それだけ人間は脆い生物なのだ。


 この子と一緒にいると、自分が魔族だってことを忘れるくらい楽しい。

 でもそれは罪人の自分にとってはやはり枷でしかないのだ。

 人間として振舞うことを許されぬ枷。


 今の自分にはこの子の人生を背負う資格なんてないのだ。


「ごめん、話すことはできない」


 リーゼの瞳に涙があふれる。


「どうして! どうしてなの!

私じゃダメなの? 家族も失ってもう私にはブルーレットしかいないんだよ!

つれてってよ!

私が子供だから? 人間だから? 魔族だったらいいの?

お願い! 一緒に居させて!」


 涙ながらに訴える懇願だった。

 どうしてこう男ってやつは女の涙に弱いんだろうか。


「それでもだ、一緒に行くとなったら、危険を伴う。

正直リーゼを守りきれる自信がない」


「勝手に助けて、勝手にこんなに関わって、勝手にいなくなっちゃうの!

そんなのないよ、ならどうして助けたの? 助けたなら責任取ってよ!」


 拒む圭に追い討ちをかけるリーゼ。

 面倒みる気がないのなら、野良猫に餌を与えるなの理論だ。


 そこまで言われて、しぶしぶ圭が折れる。


「わかった、今から全部話す。

でも約束してくれ、もし、少しでも怖いと思ったり、自分の命が大事だと思ったら、おとなしく村に残ってくれ」


「うん、約束する」


 夜も更けていくベッドの中で、手を握って離さないリーゼに圭は語りだした。

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