第26話 新入生ガルボの恋 6
武術専攻の稽古場からテレサのいる教室までは歩いて5分、走っても2分はかかる。
まだ
途中、曲がり角で何かに躓いた。
それが誰かの一部だと気づく。
赤黒い液体に染まったそれは、ついさっきまで意味を持っていたようにたたずんでいる。
しかしながら、今はもうそれはもうただの肉塊だった。
脳裏にテレサの顔がちらついたが振り払う。
何の想像をしている!
自分が恐ろしくなる。
その肉塊と想像に目を背けると急いで立ち上がり駆けだした。
意思に反して涙が溢れてくる。
「テレサちゃん!テレサちゃん!!」
鼻水が流れる。
生きた心地のしないまま無慈悲で最悪の世界にテレサを想像しては、その悪想を振り払った。
早く彼女の元へ!!!
そこかしこから血の匂いがしたが目もくれず、ガルボはひたすらテレサを目指した。
この校内で何かが起きている!
何者かが、僕たち生徒を狙っているんだ!!
今すぐ会いたい。
あの優しくて甘い香り。
なににも染まらない健全な果実。
不確かで虚ろ気な横顔。
召喚術専攻の教室の扉を蹴り破った時、ガルボは安堵に包まれた。
そこにはテレサともう一人の女子生徒が抱き合うようにしてかがんでいた。
小さな教室にはただ二人。イタチに襲われたウサギ小屋を思わせる。
「テレサちゃん!!」
「ガルボ君!!」
テレサすでに泣いていた。
「ガルボ君!!来てくれるって信じてた!」
「無事でよかった!何かがおかしいんだ。学校から出よう!!」
「怖いわ......廊下で、誰かの叫び声が聞こえたの......。」
「ここに来るまでに危険な兆候を目にしたよ......でもここに留まっていても仕方がない!」
その時、ガルボは異変に気付く。
見知らぬ男が教室内に現れたのだ!
音もなく
窓際にくっきりと逆光を浴び立つその男は黒いローブを被っていた。
表情はなく、目の色はブラウン。額に垂れているのは珍しい黒い髪だった。
存在感の感じない死人のような白い肌。
置物のようなその男は音もなく消えた。
消えた??
錯覚か?
まさか!
だがおかしい!さっきまでは確かにこの教室には二人しか居なかったはずだ!
それに入り口は一つ。僕のうしろの扉だけだ。
混乱するガルボをよそに、男は再度出現した。
消えた窓際からは離れた教壇に座っているその男は、ガルボの認知に反応したかのようにまたしても姿を消した。
「え!?いま......」
男を目視したテレサと女生徒も動揺を隠せない。
一体何なんだ!!
そう思ったがガルボにはなぜだか理解できた。
この男が
「二人とも!早くこっちへ!」
二人は勇気を振り絞ってガルボの元へ走りだした。
ガルボとの距離は約10m。テレサにとっては果てしなく遠い距離に感じられる。
手を伸ばせばそこには大好きな男の子が。けれども遠い。
あと少し。
ガルボは大きく両手を広げている。
あの広くて丈夫な胸に抱かれたい。不埒にもそう願っている自分に恥ずかしさを感じた。
お互いの指が触れ合った瞬間、おおらかなガルボの優しさが、テレサを包んでは抱きしめた。
力強くも朗らかな香り。神様が天国を表現したかのような温かさ。細胞の一つ一つが活性化していく。
恋の病で淫らになりそうな自分を見られないように、厚い胸板に顔をうずめる。
飽きれるくらい単純に、テレサは安心を感じていた。
隣でその様子を見ているアスカは、テレサの表情に驚きつつも安堵で泣きだしそうになる。
「...ニガサナイヨ。」
!!!!
ガルボの耳元に冷たく言い放たれたその一言は、恐怖心を煽るには十分なものとなった。
「行こう!!」
その声を振り払ったガルボ達3人は校門へ向かって走り出した!
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