最終話
今日は私の誕生日、もう二十九歳になった。
若かったあの頃とは違い、胃は少し弱くなったし、軽かったフットワークはどこかへいってしまった。
でも、私には、素敵な自分がやっと見つかった。自分らしい、私。特別な自分に、自信を持てる私だ。
そんな私は、あの頃のように、今日、車で麗と大好きなあの場所へ向かっている。
大好きな優しい洋楽を奏でながら。
「今日は特別な愛菜さんの特別な日だ」
「そう、特別な私のね」
「ふふ、愛菜さんが活き活きしていて嬉しいよ、あの頃と全然顔が違うからさ」
麗はあの頃と同じように、ふふっと笑った。今日も片手で優しくハンドルを握る彼の隣が心地よく幸せだ。
「麗のおかげだよ、麗がいてくれたから」
そう、彼がいたから、今の私はある。私を特別なんだと認めてくれた、彼がいたから。
私は昔を思い出しながら、彼に質問をする。
「ねえ、なんであの時助けてくれたの?初めて会ったあの日」
すると彼は言った。
「理由なんてないよ、僕にとって当たり前のこと」
「……麗から、初めて当たり前を聞いた」
「でも、愛菜さんを好きになったのは、愛菜さんが素敵な人だからだよ」
「麗……」
そう言う麗の瞳は、今日も麗しかった。
そして、アクアラインを越えて、大好きな赤く大きい、ふたりの橋に到着した。
「着いたよ」
「いつ来ても、よき」
「その言葉好きだね、ほんと」
「いいじゃん」
まだ、あの頃と同じように使っている言葉に、麗は笑って言葉を返していた。私たちは、ずっと変わっていない。良い意味で。ずっと、ふたりでありのまま生きてきた。
「さ、行こう、今日も夜景がきれいだよ」
「楽しみ」
そう言って、彼はひとつしかない特別な片手で私の手を引っ張り、橋の頂上を目指す。そんな彼の瞳は、優しく、透き通って、輝いていた。きっと、いつ見ても、それは宝石のように輝く瞳だろう。
「愛菜さんの夢が叶ってよかった」
「ありがとう、これからも、その夢を叶え続けるけどね」
麗はきらきらと瞳を夜景で輝かせながら、片手で私の手を掴んだまま、言った。
そして、私たちの大好きな景色が見える、頂上へとやってきた。
「ほんとにいつ見ても、綺麗だね」
「愛菜さんの方が綺麗だよ」
「麗の方が綺麗」
「ふふふ、面白いこと言うね。昔は照れていたのに」
「本気だってば。って、昔の事はいいから、は、恥ずかしいよ」
工場の炎が大きく燃えていた。海面にまで、映り輝く炎は、より、大きく明るく見えた。目の前の夜景を見つめながら、麗はふふふと、笑っている。そんな彼を見て、私も自然と笑みがこぼれる。
繋いでいる手は、とても熱かった。麗の温度が、私に強く伝わっていた。
そして、麗は私にこんな質問をする。
「今日、俺はここで何を言おうと思ってると思う?」
「え?」
突然の質問に、私はヒントを求めようか考えていると、そんなもの、要らない言葉が返ってきた。
「わかるでしょ?俺たち、出会って、何年経ったかな?」
「あ……!お、覚えてる」
「麗……」
「結婚しよう、愛菜さん。一生大切にするから」
そうだ、彼は、出会ったばかりの頃、私に言っていた。三年一緒にいられたら、結婚しようと。そうか、私たちは、もう三年も一緒にいたんだ。
嬉しすぎて、瞳に涙をためていると、宝石を瞳に映したまま、彼は私を見つめて言った。
「ダメ?」
私は、その質問に、あの頃と同じように返事をした。
「ダメじゃない……」
「ありがとう。もちろん、してください」
「私は、麗のこと、愛していますから」
彼は私を特別な世界へと連れて行ってくれた。普通など、存在しない、輝く世界に。どこまでも、いつまでも、特別でいられる麗しい世界に。
きっと、これからも、連れて行ってくれるのだろう。
特別な彼が、私を拾ってくれたから。
特別な君に拾われて 白咲夢彩 @mia_mia
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