第17話 災難
テントの外ではジョルジュが火の番をしていた。馬車移動は危険と隣合わせだが、まだこの辺りは魔物が少ない為、護衛を雇っていない。
危険地域も通るのでいずれは雇うが資金の都合でまだだ。
「どうした?泣いていたのか!」
目が赤くなっていたのか泣いていたのがバレてしまった。
「あ…へ、平気だよ。なんで泣いてたのかな?ハハ…。」
笑ってゴマかして水をもらう。
火の前に二人で並んで座った。ジョルジュは優しく肩を抱いて引き寄せる。
「アリア……すまないねぇ……」
と言う。
「何?私は大丈夫だけど。」
「何だかお前は急いで大人になっていくようで……」
「そう…かな?今までサボリすぎたのかも。」
「いや、流行り病にかかってからお前は変わってしまった気がする。リーナが亡くなって自分も危険な目にあって…」
ジョルジュは焚き火を見つめながら話す。
「父さんが村に連れて行ったばっかりに…」
「そんな事ないよ。」
「だけど、貴族に対面する事になったのもそれがキッカケだからな。」
そこが境で変わったのは本当だからそう感じてしまうのは仕方ないけど…困ったな、どう伝えれば良いのか…
「父さん…何かがキッカケで子供が成長するのはいい事だよ。私、良い方に変わったんでしょ?」
「……まぁ、そうだけど。もっとゆっくりで良かったんだよ。ゆっくり見守りたかったんだよ、お前の成長を。」
「父さん。私、家族の助けになるように頑張りたいの。心配してくれて嬉しいよ。」
私はこの愛情あふれる父親にどう接して良いのか少し迷ってしまう。
転生前、私は父親と疎遠だった為、父娘おやこってあまり良くわからないところがある。
小さい頃から愛情を注いできた娘ではない私が、でも応えたい気持に嘘はない。
「大好きだよ…」
ジョルジュは目を潤ませながら微笑むとそっと抱きしめ私をテントに戻した。
朝起きると隣でジョルジュが眠っていた。夜中にウォルフと交代したらしい。
起こさないように外に出ると兄達が朝食を食べていた。私もそこに加わる。
「昨日の夜、父さんにあやまられちゃて…」
私がポロリとこぼすと
「あぁ…、かなり落ち込んでたからな。お前が貴族からお声がかかって。」
「でも、こうなったら良い機会だと思わなきゃね。私、頑張るよ。結婚問題はまぁ、置いとくとして、勉強して早く働けるように。」
ラルクの言葉に胸が痛くなったがここまで来たら腹を括るというか、やるしかない。
私の言葉にウォルフも
「そうだな、オレも体を鍛えて強い兵士になるぞ。」
「お前たち…そう言われたら長男として負ける訳にはいかないな。」
ラルクも笑顔になると、三人で水で乾杯しお互いに頑張って父親の助けになる事を誓いあうのであった。若いってい〜ね〜。
今日は街道沿いにある村まで行く予定だ。少し離れているので休憩少な目に馬車を走らせる。街道とはいえ道は悪い。アスファルトって偉大だね。
ガタガタと揺れる馬車は乗ってるだけで疲れる。貴族様仕様の馬車はそんなに揺れなかったよ。やっぱりお金かかってるのね。
日も暮れ始めた頃、そろそろ村が見えてくるころだ。
もうすぐだなと、皆で話していた時、御者台のウォルフが声を上げる。
「父さん!煙が!」
前方の木々の間から黒い煙が細く立ち上っている。よく見ると村の方だ。
村から出てるのだろうか?カマドの火?じゃ無いよね。色んな所から上がっている。
「まさか…」
近づくにつれ村の全貌が見える。
殆どの建物が焼け落ちていた…側には誰も見あたらない。地面には沢山の車輪の跡がある。貴族の馬車だろうか。
村が焼かれてるという事は流行り病が出ていたという事か…
父さんとラルクは呆然と村を見回り、顔色を無くしていた。私とウォルフはリーナの村で一度見ているのでまだ免疫があるが二人は初めてのことだ。
ショックが癒えないがすぐにここを離れなければ、感染の可能性が無いわけではない。
馬車を出そうとしたその時、
「誰だ!」
不意に一人の男に呼び止められる。振り返るとそこには革鎧を着て帯刀した、いかにも貴族らしき人がいた。
「あ、アワワ…私達は怪しいものではありません。今来たばかりで通りすがりの者です。」
ジョルジュは頭を下げるとそう話した。貴族らしき男はフンッと鼻で笑い。
「そうか…だがお前達はもう感染しているかもしれないな。領主からの命は感染者の隔離及び村は焼失させよ、という事だからな。」
そう言ってスラリと剣を抜いた。ギラついた目は恐ろしく私達は驚いて
「私達は本当に今来たところです。何にも触れていません。感染なんてしてません!」
そう必死に否定した。
「平民の言う事など信じると思うのか、だいたいお前たちの為に何故我々がこの様な事をせねばならんのだ。平民がいくら死のうと何の意味もないわ!」
剣を構えるとゆっくりと近づいて来た。その顔色は悪くとても正気とは思えなかったが、恐怖でその場を動けない。
剣を振りかぶったその時、ウォルフが騎士に向かって飛び込んだ。
「早く逃げろ!」
そう叫ぶと騎士の胴体にしがみついた。弾かれるようにラルクが私の手を繋いで森に向かって走りだした。
「待って!ラルク、父さんとウォルフが!」
「ダメだ!相手は貴族だ!とにかく逃げなきゃ、みんな殺される!」
ラルクは足を止めることなく走り続けた。後ろで何か叫ぶ声がきこえたがそのまま森に入っても止まらずどんどん突き進む。
道なき道、深い草を分け入って、服は破れ手も足もキズだらけになりながら走り続けた。私も必死に足を動かしたがもう限界だ。
「い、息が…止まって…」
それを聞いてはじめてラルクが足を緩めた。二人共ゼイゼイと息をきらし、頭がボーっとする。振り返っても森の木々以外何も見えなかった。
「…戻ってみようよ。」
「ダメだ。少なくとも朝までは…」
「なぜ?」
「流石に貴族も朝まで俺達を探すなんて面倒な事はしないだろう。」
ラルクは村があった方を見ながら話す。何も聞こえてこない事が怖さを増長させる。
「父さん達はどうなるの?」
「……わからない。けど…」
「けど…?」
ラルクは何も答えてくれなかった。
日も暮れて辺りは真っ暗になり月の光だけが頼りの森の中、二人きりだ。
初冬の森は寒くて、毛布も無く一晩過ごすのは過酷だ。
木陰に腰を下ろすとラルクは私を後ろから抱きしめ寒くないかと気遣ってくれる。背中はほんのり暖かくホッとする。
緊張が少し緩んだのか眠くなってしまう。
「アリア、眠ると体温が下がる。頑張って起きてろよ、朝になったら日が昇って少し暖かくなる。」
「うん、わかった。ラルク、ありがとう。」
二人とも森で何も無く過ごすのは初めてでどうすれば良いのかわからない。火種も無く暖をとれず食べ物もない。無言でいると気が滅入ってくる。
「父さん達、きっと大丈夫だよね…」
「……あぁ。そうだな。」
「……マティウス様なら絶対こんな事しないのにね。」
「そうか?貴族は貴族だろ。」
「貴族でも色々いるんだよ。マティウス様、ダリューン様、アリステア様は優しかったよ。」
「でも、お前を連れて行ってしまう…このまま父さんとウォルフがいなくなったらオレは…」
「何言ってるの、大丈夫だよ。きっと…」
それ以上会話は続かず、まんじりともしない夜は更けて行った。
薄っすらと陽がさし始め、私達は凍える体をなんとか動かす。早朝は冷え込みが激しく震えが止まらない。
ゆっくりと村の方へ向かって歩きだす。踏みしめる足元の草は時折シャリシャリと音を鳴らし、冷気がたちあがる。
思っていたより村から離れていたのかなかなか森を抜けられない。
やっと木の隙間から村があった場所が見え始めた。私はホッとして足を早める。
「待て、アリア。様子をみてからだ。」
ラルクはそっと周りを警戒しながら木の陰から昨日いた辺りをうかがった。
そこには誰一人おらず静かだった。私達は森から出て父さんとウォルフを探した。
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