第218話 人工知能、伝言を聞く
フォトンウェポンから
一つはオーバーテクノロジー的構造により、フォトンウェポンの内部で
その土台こそ、
フォトンウェポンを
……ならば、その超未来の物質を弾丸に変えたら?
更に“ドローンアーマー”から応用して弾丸に特殊な振動を加え、前面の空気抵抗や緋色の羽衣を削り取る、一種のスリップストリーム的状態を実現できたとしたら?
威力は流石に
しかし今ハルトの肉体を一発で貫いたように、立ち回りによっては狼少年を仕留める
「ぐっ、ああああああああああ!? 僕の肩があああああああ!?」
ハルトが悲鳴と共に、右肩に手をやりながらよろめく。
今いる場所が悪夢だと気付いたかのように、血走った瞳をクオリアへ大きく見開いていた。
「な、何をした!? 僕の、僕の、美しきユビキタス様の力が、何故……!?」
「状況分析。ハルトへの損傷を確認。この攻撃は有効と判断」
銀の弾丸が再び装填されたフォトンウェポンを、無言で構える。
人工知能に油断や慢心という文字は登録されていない。ハルトが無力化されるまで、手を緩める事はしない。
「更なる無力化を実行する」
「うぐっ!?」
乾いた銃声。
二発目。
「ぼ、僕には例外属性“恵”が……ぐっ」
たん、たん、たん、と。
ハルトの体で回復が始まった直後、三発目が撃ち込まれた。四発目、五発目。回復した分だけ、次の銃弾が体を抉っていく。
回復するのなら、撃ち直す単純作業を繰り返すだけだ。
「がっ、はっ、ばっ、まっ」
心臓や脳には直撃させず、手足や内臓を避けた箇所のみを的確に傷つける。そのたびに回復する。その度に抉っていく。その度に回復する。その度に埋め込まれる。その度に回復する。その度に浴びせられる。その度に。その度に――。
「……ああ、ひぃ……」
やがて風穴の回復が遅くなってきた。例外属性“恵”についても分からないことだらけだが、術者の魔力を使っている以上、いつかは枯渇する事には変わりはない。
そして68回目、トリガーを引く。
銃口が火を噴く。
ハルトの左腕から血飛沫が舞うと、遂に尻餅を付く。先程までの不遜な自身はどこへやら、既に戦意ともプライドとも定義される値が検出されない。
「くっ、いやだ、僕は、僕はユビキタス様の力を継いでいるのに、何故こんな……!」
質問には答えず、銃を突きつけ、淡白な瞳で見下ろす。
「間違いだ、何かの間違いだ……こんな美しくない展開、何かの間違いだあああああああああああああああああああああ!!」
「例外的な動作を確認」
独りでに緋色の膜が滑り落ちるように動く。
例外属性“焚”の緋色が地面へ叩きつけられた直後だった。しゅわぁ、と大量の水蒸気がクオリアとハルトを遮る。
「予測外の事態発生。今後の例外属性“焚”への予測にフィードバックする」
超高温の空気の壁に、クオリアも立ち止まるしかない。無理に行っても重度の火傷を負い、5Dプリントによる緊急メンテナンスを実行しなければならなくなる。それこそ時間のロスだ。
地面の水分を利用すれば水蒸気の壁を発生させることは可能だとは予測していたが、想定よりも量が大きすぎる。水蒸気そのものに例外属性“焚”が浸透している可能性が高い。
しかも、その数秒間に――ハルトは忽然と姿を消していた。
周りの進攻騎士団や司教の中に、その少年の影は無い。完全にこの異端審問の場から逃げた。
「ハルトの逃走ルートを予測」
だが迂闊にも足跡や血痕を残している。逃げた方向には見当がつく。
逆上して無関係の人間を襲う前に、そして次は逃げられない様に足も穿つ必要がある。ランサム公爵や、次男のキルプロに関する情報をインプットする為なら、ひとまず口さえ動いていれば問題ない。
最適解を再構築しながら追おうとしたクオリアは、そこで異端審問の場に目を向ける。
「進攻騎士団の無力化を認識」
ハルトと共に来た進攻騎士団や司教が完全に沈黙している。
今二つの脚で立っている存在のほとんどが、雨具で顔を隠した魔術人形達、
「クオリア、私はあなたに伝える事がある」
「エスからラーニングした情報と照合。シックスを認識」
茜の髪を真っすぐに降ろした少女が近づいてきた。聖テスタロッテンマリア迷宮で
先程からの戦闘を見ている限りでは、クセだらけのスキルを持つ魔術人形達を統率していたのも彼女だ。実質
「マリーゴールドが人工魔石経由で、あなたへの伝言を登録している」
クオリアを鏡写しにしたかのような鉄仮面のまま、シックスは胸の魔石に魔力を込めて、その伝言を出力した。
『フィールという娘じゃが、何か騎士が包帯ぐるぐる巻きで一杯横たわっておった仮設診療所という所に送っておいたぞ! クオリアにそう伝えればわかると言っておったが大丈夫じゃろか? あと
マリーゴールドの声だ。
人工魔石の機能として、同一ネットワークにある魔術人形の声を録音する機能があるようだ。
「エラー。“ときめく”という単語は登録されていない」
「マリーゴールドは“老女的な喋り方をするヒロイン”の恋愛小説を参考に人格を再構築している為、時折恋愛方面での余剰な言葉を出力する事がある」
正直後半の情報は物凄くいらない上、“ときめく”という単語のラーニングも今は不要だと判断した。
なので前半部分のみに着目し、クオリアは返す。
「シックス。マリーゴールドへこちらから伝言を送る事は可能か」
「可能」
「ならば、“あり、がとう”と伝言を要請する」
「理解した。また
シックスの胸から聞こえた次の声は、
『伝言は二つ。次は“キルプロ”がてめぇを潰しに来る。だがこいつは俺が潰す』
続けざまにもう一つの伝言が飛んできた。
『ロベリアは楽園に共感し、俺と協力している。てめぇら“ハローワールド”も、俺達と協調して動いてもらう』
それ以上の伝言は無かった。
一瞬の静寂が、クオリアとシックスの間に流れた。
「
「否決する」
当然、人工知能は迷いなくその返答を出力した。
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