【書籍版2巻発売中】異世界の落ちこぼれに、超未来の人工知能が転生したとする~結果、オーバーテクノロジーが魔術異世界のすべてを凌駕する~
第156話 人工知能、諸悪の根源たるブラックホールの騎士を攻略する①
第156話 人工知能、諸悪の根源たるブラックホールの騎士を攻略する①
クオリアの状況分析。
先程師団長達が装備していた
しかし
勿論魔動器を通さず、古代魔石“ブラックホール”が十全に発動すれば
「
状況分析。仮説。解の算出。それらをマルチタスクで熟しながら、クオリアは尋ねる。それだけの力を、誤った方向に使おうとしている男に。
「あなたは王都を滅ぼそうとしているのか」
「王になる為だ。これでも国民の信頼は厚いと自負している。貴族がいなくなれば、国民が寄る大樹は俺に違いない」
「あなたは何故王になる事に固執しているのか」
その質問に、更にロベリアからインプットしていた情報を重ねる。
「また、それはあなたが王族として所属した、“ビット王国”と何か関係しているのか」
今はもう無き王国名を出すと、突如ウッドホースが顔に手を当てる。
まるで嫌な記憶を思い起こすような素振りだ。
「……そこまでバレちゃ……仕方ないか」
ウッドホースは顔を隠したまま、古代魔石“ブラックホール”の方へ向く。
敢えてクオリアに背中を見せつける。
「君の知る通り……、俺はビット王国の皇太子だった……30年前、アカシア王国に攻め滅ぼされる前まではな」
ウッドホースの頭が少したれる。
「俺は……俺はこの王国が許せない。ち、父上や、母上が愛した国を、あんなに残虐にしやがった、このアカシアがな……」
「……」
「だから俺は……この古代魔石“ブラックホール”を使って、アカシアに復讐してやるのさ……!!」
家族が失われる辛さは、クオリアも既にラーニング済みだ。
目の前で死なれたのなら、それは一生ノイズとして残るだろう。
そして喪失を埋めようとして、バグにさえ手を出す。
クオリアはその悲しみを再確認した上で、“復讐と悲劇の王子”であるウッドホースにこう投げかける。
「エラー。あなたの挙動からは、“美味しい”の喪失が見られない」
続けて、その悲劇に止めを刺す。
「そもそもビット王国を滅ぼしたのは、ゼロデイ帝国という情報をインプットしている」
鼻で一瞬吹く音が聞こえた。
すっかり力が抜けて、呆れ果てたように笑うウッドホースの後姿を認識した。
涙声は認識出来なかった。
「なーんだ……クオリア君、騙されなかったか」
代わりに、舌を出しながら小馬鹿にする顔だけクオリアに向けてきた。
「こういう悲劇的何か、好きかと思ってサービスしたのに……三文役者で済まないね。演劇は苦手なんだ」
悲劇が好きかと考察したウッドホースは、見当違いも甚だしい。悲劇は一切回避すべき事項として登録されている。
悲劇はいつだって、当事者に絶望を与える。クオリアは十二分にラーニングしている。
「ビット王国の王子だったのは本当だ。でも物心がつく前でね。生憎愛国心も復讐心も、腹の中で煮えたぎる事はなかった」
「……」
「アカシアに亡命後も、まあ別に暮らしには困らなかったしな。騎士は楽しかったし、ヒーローになるのも悪くなかった。人々の中に、英雄ウッドホースが根付く人生も、まあまあ悪くは無かったさ……」
先程の悲劇を語る時とは違い、ペラペラと語り出すウッドホース。
クオリアの中にその舌から生まれた言葉の羅列が入っていく。
ノイズと一緒に。
「……ただ、丁度一年前に、ふと思っちまったんだよ。俺を仰ぐ民達を見てたらな」
その抑揚の付け方だけは、一流役者の様だった。
「……もし俺がビット王国であのまま王になっていたら……民全員が俺を王としてあがめると思ったら……胸底の黒ずんだ野望がどくん! どくん! と来ちまって」
天を仰ぐウッドホース。
「そうして上を見上げたら、ああ、ヴィルジンとルート、邪魔だなって。その二人だけじゃない。ロベリアも邪魔だった、カーネルも邪魔だった、それにそう、お前も邪魔だった! それらが俺の上から全て消える。こんなにいいとも悪いとも言える日はない」
高笑いでその演説は締めくくられた。
余談として、クオリアに逆に問い返す。
「……なあクオリア君。分からないって顔してるけど、ちゃんと相手の立場に立って考えるのが大事だ。君は“美味しい”とかいう笑顔を見たくて守衛騎士団“ハローワールド”やってるんだったな?」
「肯定」
「王になれば、皆笑顔を向けてくれる。そんな椅子があるんだぜ? 玉座って名前なんだけどな? その玉座が今、目の前にある……座りたいよな? 座ってみたいよな。そこからの笑顔をよ……! 例え今座っている連中を、磔にしてもなぁ」
「否定。それは“美味しい”ではない」
クオリアは、ウッドホースの持論を聞いてずっとノイズがこだましていた。
バックドアの時ほどではなくとも、無視は出来る程では無かった。
「何より、その行為により、沢山の“美味しい”が奪われている。あなたの行為により、アイナは未だ意識を回復させることが出来ない」
灰色の瞳が揺れる。シャットダウンの
それが、クオリアとシャットダウンの決定的な違いである。
「あなたを放置する事は、非常に多くの“美味しい”が消滅する事を意味する」
握っていたフォトンウェポンを、無意識に掲げようとした。
「……」
しかし、その両手を理性が止めた。
思い出したからだ。
全身で抱きしめてくれたアイナの全身の体温を。
労わってくれた、ロベリアのなでなでを。
定義できない心の力をくれた、スピリトの右拳を。
カーネルが教えてくれた、蒼天の記憶を。
やりどころのない感情を埋めてくれた、エスの胸の温もりを。
「あなたは、誤っている」
「違う。俺が“正しい”になるのさ」
その上で、自分で選択した。
再度クオリアは、一切正当な理由など存在しないウッドホースにフォトンウェポンを向ける。
「あなたを排除する」
「面白い。いいだろう。生憎俺にはお前の奇怪な武器を鼻の先で笑える用意がある」
『ブラックホール』
「
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