第77話 人工知能、悪徳商人の捕縛を見る
クオリアとエスの後ろで、
エスも例外ではない。クリアランスの一人が回収に向かおうとしていた。
「エスは回収しなくていいわよ」
クオリアが遮る前に、カーネルの一声が行動を止めた。
擦れ違い際に、クオリアに尋ねる。
「“ハローワールド”で面倒を見るんでしょ」
「肯定」
「……見事有言実行してみせたわね。更には心があることもアナタなりに証明したって訳ね」
「肯定。魔術人形には心がある」
「ええ。だから魔術人形としては、結構大きな課題が出たわけね」
カーネルの信条は変わらない。
魔術人形とは心を持つべきではない、意志無き武器。例え溶岩地帯であろうと、ブラックホールの中であろうと自らの破壊を厭わず、残酷に任務をこなせる最強兵器を指している。
「武器が矛先を選んだ時点で、それはもう武器ではない。指示通りに動かない。それは不良品よ――もう彼女は、魔術人形でも何でもないわ。それでもクオリア、アナタは彼女を使えるの?」
「エラー。言葉の定義に誤りがある。生命活動を持つ存在に対して“使う”は不適格である」
カーネルと最初会った時から変わらない凛とした真っすぐな眼。
それを折る事は不可能と理解したのか、諦めたように優しく目を瞑る。
「魔術人形の使い方としてはそれでは不正解。でも
二人から踵をめぐらせる。独り言を呟きながら。
「……さっきのエスの覚醒、自我が目覚めたからという事も考えられるわね。一考の余地はあるか……そ、れ、よ、り、も」
カーネルの足元には、ディードスが醜く悶え転がっていた。
折られた鼻からは血が噴き出しているが、泣き喚いている辺りはまだまだ元気だ。
「あらあらしぶといわねぇ豚ちゃん。脂肪のおかげで気絶せずに済んだのかしら」
「お、俺を捕まえる気ですか……そんな事したら、狂信者が、あなたを踏み潰して……」
「まぁだアナタそんな事言ってるの? そろそろ気付きなさい。アナタ、ルート王女に乗せられただけだって」
「乗せられた……?」
往生際も悪すぎる姿に、カーネルも苦笑いをするしかない。
「ルート王女は自分の支持者に魔術人形を流して、戦力としたかったんでしょうねぇ。更に“げに素晴らしき晴天教会”にとって呪われた血である獣人の数を削ぐ事。アタシ達が乱入しても、魔術人形でヴィルジン派の騎士を削ることが出来る。どう転んでも魔女の掌の中」
指を遊ばせて魔女の掌を表現していると、その掌を途端に握りしめた。
「でもアナタ魔術人形の商売に失敗しちゃったじゃない? 私達一人も倒せてないじゃない? 魔術人形みんな失っちゃったじゃない?」
指摘されたディードスは、思わず周りを見渡す。すぐ近くにいるのはクリアランスの騎士だけだ。
「そんなアナタを、あの魔女守ってくれるかしら」
「けど、俺には免罪符が……!」
「免罪符に書いてあった事ね。『神に代わり、地を乱した蒼天を騙る獣人に罰を与え、人々に魔術人形を与えよ』って。別に越権行為を行うなんて一言も書いてないの」
「え……」
「“げに素晴らしき晴天教会”はこう言うでしょうね……『これはディードスが協会の名を騙って働いた不届き千万! 悪を働く商人生命を見ず、
「あ、ああああああああああああ!」
ディードスは青ざめて、腰を抜かしたままカーネルにしがみつく。
「違う、違うんです、違うんだ! 俺は知らない! 俺は悪くない! 全部、全部魔術人形が勝手にやったことだ……俺は知らない、俺は……」
「甘ったれてんじゃねえぞこのタマナシがぁ!!」
カーネルの靴底が、容赦なくディードスの股間を踏み潰した。
二つの魂が暴発した。
「ここぉ……か、かかぁ……」
「魔術人形は道具……ならそれらがやったケツ持つのは主人であるアンタに決まってんでしょーが!」
果てしない男性の痛みがディードスの股間を走り、思わずディードスの口から泡が出る。その場にいたクオリア以外の男子は皆ディードスに同情せざるを得ない。
「アンタも商人なら、商品に敬意を持て! 人間としての責任を果たしやがれ! それが出来ないアンタは、道具以下のゴミ屑だこの■■■■が!!」
胸倉掴んで噴火したように罵倒するカーネルを見て、クオリアとエスが騎士の一人に尋ねた。
「説明を要請する。■■■■とは何か」
「■■■■とは、私の魔石にも登録されていません」
「……知らんでよろしい。君達には汚れた言葉だ」
騎士に純粋具合を察されて濁された。クオリアとエスのラーニングにはまだ早かった。
クリアランスの騎士達が、ディードスの周りに密集する。
「連れて行きなさい」
「あぁ……お許しを、お許しを」
「安心なさい。ちゃんと法でアナタのその
未だ股間の激痛で身震いしているディードスが、両脇を固められて引きずられて行った。
鼻を鳴らしながら、カーネルは近くにいたクオリアに話しかける。
「さーてと。アタシの勘が正しければ、まーだ終わりじゃないと思うのよね」
「あなたは正しい。まだ課題は山積している。リーベは死亡していないと推定される。その場合、古代魔石“ブラックホール”のリスクは依然として存在する」
「ええ。目下一番のリスクはそれね。けど、ディードスは邪知だけど商いの小手先だけは一流よ。薄々免罪符が役に立たないときの切札をもう一枚用意していると思ってたんだけど……」
未だ警戒を緩めないカーネルに、遠くから騎士が駆けこむ。
「か、カーネル公爵! 一大事です!」
「ほれ来た。何どうしたの?」
騎士は血相を変えた様子。カーネルも目を凝らして耳に入れる。
「魔術人形19体が……狐面を被った雨合羽……
カーネルも流石に想定外だった。想定以上だった。
「なんですって……護衛がいたはずでしょ!?」
「……全員、倒されました。しかも、10人の護衛が、たったの2秒で……」
カーネルも開いた口が塞がらない。
何よりディードスの支配下を離れた直後の襲撃。いくら何でもタイミングが良すぎる。
クオリアも、改めて思考する。
まだ、
一方で、ディードスは全員の意識が自分から離れた事を感じ取り、一瞬だけ勝ち誇ったかのようにほほ笑む。
「うっ!?」
ディードスの袖から落ちた紫色の煙玉。
地面に着くや否や、紫の煙を放って騎士達を怯ませる。
「催涙の煙……しまっ」
「小細工は弄しておくものだなぁ!」
予め目を瞑っていたディードスが、一気に駆け抜ける。脇目も降らず、人生で一番の全力ダッシュを始めた。
「ぶひひ、まだだ……まだ
それが死路である事は、まだ気付いていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます