第42話 人工知能、古代魔石を見つける

「こいつ……こいつ……っ」


 迫るクオリアに、マインドは手持ちの猛毒全てを試した。

 毒と毒の重ね合わせによる猛毒の即死フルコースも、クオリアに浴びせた。


「予測修正無し」


 全て、無意味ラーニング済みだった。

 万策尽きたマインドは、膝を落として苦笑いをする事くらいしか出来ない。


「……ちくしょう。そんなの、アリかよ」


 そして、クオリアはゼロ距離まで接近した。

 挙動や表面に、猛毒の症状は一切ない。


 マインドも、ここに至ってクオリアが完全に毒を克服してしまった事実を受け入れる。

 苦渋の表情を浮かべ、両手を上げながら敗北を認める。

 

「……ここまでか」

「状況分析。あなたの信頼度は高いが、無力化の措置は必要と判断する。これより5Dプリントにて手錠を作り、あなたの両手を拘束する」

「なんだ。気絶させないのか。優しいねぇ……けど、厳しいゴミ溜め生活に逆戻りか。もしくは、また一般人を合理的に殺させる仕事か……?」

「説明を要請する。一般人を合理的に殺させる仕事とは何か」

「人間ってのは、制圧した街や村の管理が煩わしい時、皆殺しにしちまうんだよ。そういう時、毒ってのは便利でね……軍にとって毒使いってのは、大量虐殺を楽しめる奴にしか向いていないらしい」


 希望の無い声だった。

 美味しくない、クオリアがそうログを吐こうとした時だった。

 クオリアのセンサーに、複数の足音が引っかかる。

 

「新たな脅威を認識」


 真上を見上げると、二人の獣人が屋上から路地へ飛び降りてきていた。

 二つの得物が、青空によく映える。

 

「気づかれた!?」

「構わねえ、やっちまえ!!」


 獣人達が空に舞う隙。

 その空白はクオリアに十分すぎる演算時間を与えた。

 

「最適解変更」

『Type SWORD』


 着地と同時に、二人の得物が荷電粒子ビームの剣閃で焼き千切れた。

 あっ、と声を漏らした時にはフォトンウェポンの柄が彼らの脳を揺らし、無力化を完了する。

 だが、クオリアにとって一つだけ予測演算から外れていたことがある。

 

「悪いな……俺は捕まる訳にはいかないんだ!」

 

 観念したと思っていたマインドが脱走していた。

 脚力ではマインドの方が勝る。追いつく事は出来ない。


『Type GUN』


 荷電粒子ビームで足を撃ち抜く最適解が浮かんだ。


「……エラー」


 しかし、何故が実行できなかった。フォトンウェポンを構えたのに、トリガーを引けなかった。


 まるでマインドを捕らえる行為が、誤っているかのように。


「……優先度変更。マインドが獣人に指示した“作業”について、理解する必要性は非常に高い」


 未だ戦闘継続中の情報で溢れる下層に対して、異常な程無音な上層で起きている事。

 クオリアは、それが沢山の“美味しい”を奪う内容かもしれないと、リスクを認識していた。

 

 クオリアは奥に進む。

 発見は、さりげ無い小路の淵で起きた。

 世界が剥がれたような、一切の光を吸収する漆黒の石がクオリアの注意を誘った。

 

「異常な値を検出」


 クオリアは、肌から伝わる感覚を、特に魔術や魔力関係では重要視する。

 魔術的現象を感じ取るのに手っ取り早いのが、僅かに溢れる魔力を肌で感じる事だからだ。魔術になる前の魔力は、眼だけでなく肌で感じ取れる。これは人間ならば誰でも出来る事。

 ただクオリアの場合、機械的に全神経を集中させ、感度を高めているに過ぎない。

 

 しかし、これまで感じたことの無い魔力の検知パターン。

 何も前情報が無くとも、触れるだけで多大な損傷を受けると予測し、目視のみで分析していた。

 まず分かったのは、溢れる魔力が時間ごとに上昇している事だ。

 

 まるで、時限爆弾の様に。

 

「それに触れちゃ駄目!!」

「ロベリアとスピリトを認識」


 クオリアは漆黒の石から目を逸らし、尋常ではない様子で駆けてくる王女二人を見た。

 

「……上層にいるって事は、この暴動の隠された意図に気付いたようね」

「説明を要請する。自分クオリアの推測通り、リスクは上層にあるのか」

「リスクどころじゃないわよ! 今まさに、大隕石がこの王都に落ちている様なものよ!」


 途方もない比喩を持ち出すスピリトの後ろで、ロベリアが紙を握り締めている。

 手紙に分類されるその紙に、“雨男アノニマス”という認識していない単語があった。


「……これはね、と呼ばれる、超一級品の危険取扱指定物」


 ロベリアの顔からは、いつもの余裕が抜けていた。

 古代魔石と言えば、ダンジョン“最下層”のみで取れる魔力の塊たる、魔石。

 数億年もの時間が積み上げた、ダンジョン内の歪な魔力が結晶化したものだ。

 

 実用化すれば戦争を一瞬で終わらせる切り札にも、文明開化の切欠にもなりうる禁断のアイテム。

 ただしそれは、時に国を滅ぼす悪夢にもなり得る。

 

 

「……その中でも、これは古代魔石“ブラックホール”。名の通り、超重量を発生させて疑似ブラックホールを作り出す。発動すれば、少なくとも王都は跡形も無く消えるわ!」


 ブラックホールは、クオリアのメモリにも登録されていた。

 何故なら、人型戦闘用アンドロイド“シャットダウン”の機能に、ブラックホールを発動出来るものが存在したからだ。

 更にはシャットダウンのハードウェアは、ブラックホールにも耐えうる機構となっている。


 だからこそ、クオリアは理解した。

 ブラックホールなんてものが発動すれば、王都どころか国が吹っ飛ぶ事を。

 今の5Dプリントの再現度ではブラックホールは生み出せず、また人間の肉体ではブラックホールに耐え得る事は出来ない事も。

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