第23話 失敗しづらい投資戦術

失敗しづらい投資戦術


 残念ながら「失敗しないので」という株式取引手段は存在しません。

 存在していたら、誰もが株式取引で大儲けできますからね。

 現実は負け込む方が多いのではないでしょうか。


 そこで「失敗しづらい投資戦術」について考えてみましょう。


 「株式投資」は中長期にわたって株式を保有し、配当や株主優待を享受しながら株式の額面が上がるのを待つ株式取引です。

 「株式投資」は博打ではなく、暴落する危険のきわめて少ない東証一部上場の大型企業の株式を購入します。

 まぁ東日本大震災やリーマン・ショック、コロナ・ショックなどのように全体相場が大幅下落する局面では、株価は絶望的に暴落します。

 ですが、そもそも経営が安定しているので、一時的なパニック売りがやめば、自然と株価は暴落前まで回復します。

 これこそが中長期を見据えた「株式投資」のメリットです。



 そして「株式投資」にはある種の攻略法が存在します。


 それは「配当・株主優待」を享受するか、「売買差益」を狙うかです。


 まず「配当・株主優待」つまりインカム・ゲインを享受する方法ですが、これは『会社四季報』などで配当や株主優待を実施している東証一部上場の大きな企業を探し出して保有します。

 大きな企業であれば、株価もある程度安定しているため、「売買差益」はあまり狙えませんが、毎年確実に「配当・株主優待」を享受できるため、お得感があります。

 しかし「配当・株主優待」が「売買差益」よりも大きくなることはまずありません。

 だからこそ確実に「配当・株主優待」を行なっている大きな企業の株を保有するのです。


 次に「売買差益」つまりキャピタル・ゲインを狙う方法です。

 これも狙い目は東証一部上場の大型企業の銘柄です。しかし保有する期間がそもそも異なります。


 「配当・株主優待」を手に入れるには、「配当・株主優待」の権利が決まる日の2営業日前の大引け時点で株式を所有していればよいのです。


 つまり極端な話、「配当・株主優待」を手に入れたければ、その日だけ株式を保有し、翌日の権利落ち日に株式を売り払っても「配当・株主優待」がもらえるのです。


 多くの投資家はこの「配当・株主優待」の権利を獲る日までに買って保有し、権利落ち日に売ります。


 するとどうなるでしょぅか。


 「権利獲得」が決定する日まで株式は買われ続け、権利落ち日になったらかなりの株数が売りに出されます。

 つまり「権利獲得」まで株価は上昇し、「権利落ち日」で売り込まれて株価は下落するのです。



 ここまでの話を聞いて、ある戦術が思い浮かびませんか?


 そうです。


 東証一部上場の大型企業は株価が穏やかに上下動を繰り返し、全体相場によってじょじょに上昇していく傾向にあります。

 となれば「配当・株主優待」を手に入れて売り込まれた株式を手に入れ、次の「権利獲得」の日までに売ればよいのです。


 この戦術は、新興市場では通用しません。


 なぜなら、新興市場で「配当・株主優待」を行なっている企業が少ないことと、行なっていても株価が暴騰暴落を繰り返すためです。

 その点、東証一部上場の大型企業は、景気にもある程度左右されますが、毎年ほぼ同じ株価が続きますし、株価の上がり下がりも周期的である場合が多いのです。


 ただし、「権利落ち日」に購入して、次の「配当・株主優待」の「権利獲得」まで保有するのは効率が悪い。


 そこで「権利獲得」日の2〜3カ月前の、まだ株価が加熱する前に仕込み、「権利獲得」日に売り払うのです。


 「配当・株主優待」はまったく得られませんが、「売買差益」つまりキャピタル・ゲインは享受できます。


 配当の割合にもよりますが、10%もの配当を行なう企業はまずありません。しかしキャピタル・ゲインで10%を手に入れられる可能性はあるのです。


 「権利獲得」日の高値と2〜3カ月前の株価を調べて、もし10%以上株価が上がるようなら、その銘柄は安定して「売買差益」を狙える銘柄、ということになります。



 ただしこの2つの戦術は、相場が安定しているときにしか使えません。


 もちろん上昇相場ならいつ売っても「売買差益」が出るので、株式を保有しているメリットが高い。


 ですが下降相場なら、思いどおりに株価が上昇しませんし、配当の割合が減らされたりなくされたりする「減配・無配」のリスクもあります。

 「売買差益」狙いであっても、下降相場では買った株価まで盛り上がらないで「権利獲得」日が終わってしまうこともあるのです。


 アベノミクス相場は「ゼロ金利政策」のおかげで株式市場に資金があふれた状態でしたので、放っておいても株価は上昇していきました。

 しかしコロナ・ショックによって日経平均株価は半額以下まで売り込まれました。

 まぁ財政基盤のしっかりした東証一部上場の大型企業は、業績に影響が軽微と判断されればすぐに株価は元に戻ったのです。


 つまり「配当・株主優待」戦術でも「売買差益」戦術でも、東証一部上場の大型企業であれば株価が回復するまで手放さないなら、ほぼ確実に株価は元のところまで回復します。


 問題は事前に「その銘柄(企業)は暴落の影響を受けないのか」を知ることです。


 基本的に、日常生活で不可欠な企業の株価は、たとえ一時的に暴落してもすぐに元通りになります。


 まぁ東日本大震災での「東京電力」のように、地震だけでは揺るがない企業でも想定外の「原発事故」によって株式が大きく毀損するようなことがないとは言えません。

 これは「日常生活に不可欠な業種」だったにもかかわらず「原子力発電所」という特大級のリスクを抱えていたかどうかで株価が暴落したのです。


 であれば、「特大級のリスク」が発生しない東証一部上場の大型企業を選べばよいのです。


 たとえば「トヨタ自動車」は「電気自動車(EV)」の市場拡大に伴って売上を落としそうに思えます。

 しかし当面は『プリウス』などのハイブリッド車が業績を牽引しますし、「電気自動車(EV)」の次に来ると予測する「燃料電池車」つまり水素で走る「究極の環境配慮車」にも積極投資をしているため、将来性もしっかりと確保してあります。

 もしガソリン車に固執し続ける自動車企業であれば、各国で広がるカーボン・ニュートラルへの取り組みに置いていかれる「特大級のリスク」を抱えてしまうのです。


 アメリカの電気自動車企業「テスラ」が、これほどまでに株価を上げていくのは、まさにカーボン・ニュートラル社会を見据えた「電気自動車(EV)」に特化した企業だったからです。

 時価総額でトヨタ自動車を超え、まだまだ株価は上昇局面です。


 しかし、いずれ火力発電や原子力発電に頼った「電気自動車」には環境配慮の重しがのしかかります。そのとき「燃料電池車」への置き換わりが発生する可能性が高い。


 であれば、今「燃料電池車」に取り組んでいる企業は、今後大きなアドバンテージを得ます。


 5年・10年後まではおそらく「電気自動車」が天下を獲るでしょう。

 しかし20年・30年後を見据えたとき、環境負荷の大きな火力・原子力に頼らない「燃料電池車」は必須の技術となるでしょう。


 そのとき「トヨタ自動車」が復権する可能性も否定できません。

 ただし、置き換わりが起こるまで「トヨタ自動車」が持ちこたえられたら、の話ですが。



 これからの株式投資は「カーボン・ニュートラル」「脱プラスチック」が合言葉になる可能性が極めて高い。

 いかに環境へ配慮している企業なのか、が評価につながるのです。

 「東京電力」がもし福島第一原子力発電所の事故を収拾できたとして、これからも原子力発電に依存するのであれば、「特大級のリスク」を抱えたままになります。


 本日お話しした2つの戦術は、あくまでも「特大級のリスク」のない、東証一部上場の大型企業向けですので、ご注意くださいませ。



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