第3話夢じゃなく現実だった
暗い闇の中、誰かが自分に呼び掛けている。
駅員さん? まさか寝過ごして終点の飯能まで行っちゃった?
池袋から準急に乗って、買い物の為に練馬駅で一旦降りてドラッグストアでシャンプーやリンス、髭剃りとか色々買って、和菓子屋に寄って最中を買った後、丁度来た飯能行き列車に乗ったけど、その後爆睡してしまったって事は飯能? それとも折り返して池袋まで戻った?
いや、池袋ではそのまま折り返しだから駅員さんに起こされることはないはず…。
「駅員ではない!!! そしてここは飯能でも無いし池袋でも無い!!! ぐっすり寝ていたようで飯能まで行き折り返し池袋に向かっている最中ではあったが…」
やっぱり寝過ごしてたのか!! 日曜だから池袋で再度折り返しして長瀞・寄居・三峰口行になってたら起きた時最悪だったな…。
危なかった。
「いや、お主には世界にある日ノ本の国を統一させる為に異世界より召喚したのだ」
はっ? まだ自分は寝てて夢を見てるのか? なんか夢の中で変な事言ってる爺さんおの声が聞こえる…。
「夢ではない!! ここはお主の居た世界の過去と似て非なる世界、異世界と言えば分かりやすいか…。 先程も言ったように、お主には日ノ本の国を統一し異なる未来への道へ導く為に召喚したのだ! その為にこの世界でも制限はあるがアレを使えるようにしておいた、さらに身体能力もこの世界で
どこからか声が聞こえるけど、周囲は暗闇、身体の感覚は無く、声も発せない。
自分の居た世界と似て非なる世界って事は異世界?
って事は転移? 転生? 召喚って言ってたけど…、いやラノベの読み過ぎで夢を見てるだけでしょ?
しかも日ノ本の国を統一って天下獲れって? 異なる未来って? 何をさせたいの?
疑問が次々と沸き上がるけど、言葉が出てこない為、声の主に疑問をぶつけられない。
「お主の居た世界とは住む者が異なるものの、この世界もお主の居た世界と同じ歴史を辿る事になる。 その流れを変え異なる未来を切り開く道筋をつけるのだ! 見事成し遂げたなら褒美として願いを叶えよう」
いや待て! 願いを叶えるって何個? いやそれよりもあなた誰?
声が出ない、身体の感覚がない、しかも視界は真っ暗、どうなってるんだ? これ夢だろ?
唯一出来る事である思考を最大限に稼働させ考えるも答えは出ず、声は聞こえなくなった。
どういう夢だよ。
そう思っていると、暗闇へ徐々に光が差し込むかのように明るくなり、そして目が開く。
「知らない天井だ…」
いや、このセリフを言いたかった訳じゃなく、本当に知らない天井なんだよ。
中学の頃に建て替えるまで住んでた築40年程の実家の天井みたいに木の板で出来た天井だけど、なんか違う。
しかも畳の上じゃないみたいだし、ここは板の間?
そう思いつつも、身体を起こそうとすると、ふわりと柔らかい香りがし、突然女の子の声が耳に入って来たので驚いて声の主を凝視する。
「この度は、父にご助勢頂き誠にありがとうございました。 私は泰経の娘で照と申します」
「父? 照?」
混乱する自分に照と名乗った女の子が微笑みかける。
人? にしてはなんか額に親指ほどの角っぽいのがあるけどそれ以外は人と変わらないんだけど…。
ここ何処だ?
「はい、私は照と申します。 父にお目覚めになられた事を伝えて参りますが、その前に水を飲まれますか? 膳もご用意しておりますのでお持ち致しましょうか?」
「とりあえずお願いします。 ところで自分は何日寝てたんですか?」
「江古田原沼袋での合戦があった後、2日程お眠りになられてました」
「2日?」
ダメだ、思考が追い付かない。
とりあえず今は考える事を辞めて、水を飲み、食事をお願いすると、照と名乗った女の子は、「では膳をお運びいたします」と言って部屋を出て行った。
それにしても照って女の子、黒髪で顔立ちも整ってて可愛い。
見たところ、15~6歳ぐらいだろうか、幼さもあるけど言動とか大人びてるし、恐らくそのぐらいの年齢だろうな…。
って、豊嶋…、照…? 自分の居た世界の過去と似て非なる世界…。
じゃあ今の女の子が照姫?
だとしたらここは石神井公園…、じゃなくて石神井城?
でも角が生えてたし人間じゃないのか?
これは夢だよね…。
異世界とタイムスリップが融合した夢だよね?
でもさっき部屋にある鏡を見たけど特に変化は見られない…、いや目が良くなった? 眼鏡が無くても良く見える。
これがまさかの異世界召喚? いやそもそも夢でしょ? 誰か夢だと言って欲しい!!
いや召喚されて特典として目が良くなって身体能力アップの特典も貰ってる的な…。
じゃなくて、江古田原沼袋の合戦って確か1400年代の中ごろじゃない?
石神井公園で毎年4月末にやってるから見に行ったことあるし少しは調べた事あるけど、普通は織田信長とかが活躍する時代がセオリーでしょ何故にその約100年前に召喚をするんだよ!!
マイナー過ぎる!!! 時代がマイナー過ぎる!!!
夢だ! これは夢だから早く覚めて!!!
そんな思いは見慣れた白米ではなく、赤みを帯びた山盛りの米、具の少ない味噌汁、焼いた干し魚、漬物が乗った膳を出され、その香りを嗅いだ瞬間、唐突に現実だと思えてきた。
そして見る限りそんなに美味しそうな料理ではないけど、香りが空腹を刺激し、無意識のうちに箸を手に取り赤みを帯びた米を口に運ぶと、現実だと実感した。
ただ、お米は普段食べてた白米に比べると食感も悪いしお世辞にも美味しくはなかった。
補足--------------
江古田原沼袋の戦い
扇谷上杉家家宰、太田道灌と豊嶋氏の間で起きた戦いでこの合戦に敗れた豊嶋家は滅亡への道を辿ります。
この戦いは、太田道灌が50騎を率い練馬城(以前は平塚城との説もあり)を攻め、城下に火を放ち城に矢を射かけた事で、石神井城、練馬城より200騎を率い追撃し現在の中野区江古田、沼袋周辺で合戦となり豊嶋家当主の弟、泰明以下板橋氏、赤塚氏らの一族始め150人の死者を出し石神井城に敗走した戦いです。
尚、この時代の1騎は騎乗した武者を指し、大体騎馬武者には郎党などが5~10人程付き従っていたと言われています。
またこの戦いで太田道灌は足軽軍法と呼ばれる一騎打ちをしようとする騎馬武者に身軽な足軽が集団で攻めかかる作戦を用いたと言われていますが詳細は不明となっています。
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