第48話 輝かしき王アーサー3

「すいません、興奮のあまり失礼な事を口走ってしまいました」

「本当に失礼だよ、見損なったよ、セイン君」



 いやいや、確かに思わず叫んだのは悪いと思うけど、何でエレインさんが怒ってるんだよ……こちらを唇を尖らせながら睨んでいる彼女をみて疑問に思う。そんな俺達は楽しそうにみながらアーサー様は言った。



「いえいえ、お気になさらず、これはただの信用を得るための作業ですから。それに……エレインも嫉妬するんですね。新鮮です」

「別に私はそんなんじゃない!!」

「そんな……この俺を恋人にっていって紹介してくれたのは嘘だったんですか……」

「それは……偽装カップルの話だろう!!」

「ほう……なかなか面白そうなことをしていたのですね、よかったら今度話を聞かせてくださいね」

「うう……アーサーまで……」



 俺の言葉に顔を真赤にするエレインさんが可愛くてついにやにやしてしまった。アーサー様もそんなエレインさんを興味深そうに見ている。そして、エレインさんが拗ねているのをみて、アーサー様がコホンと咳ばらいをした。



「それでは本題に戻りましょうか。私は今は亡き父の命令で男として育てられました。私が女性という事は一部の親族しか知らない……という事になってます。まあ、普通に考えて、世話をしているメイドや、子供の時からの付き合いの人間には隠し通せませんからね。一般の国民や、騎士達は知りませんが、そこそこの地位にいる貴族達は知っている公然の秘密というやつです」



 そう言ってアーサー様は淡々とした様子で語り始めた。何度か説明をしているのだろう、その様子にはよどみなどはなく、性別を偽っていることに対して、特に感情はなさそうだ。それとも……もう、慣れすぎて摩耗してしまったのかもしれない。



「父の正妻との正式な子供は私しかいませんでしたからね……父が死んだ後も私が男として生きるという事は変わりませんでした。他の権力者達はとりあえず問題がなければ、王の血をつぐ次期後継者として、私を傀儡として扱う予定だったのでしょう。私が反抗的な事をすれば、女という事をばらせばいいですからね。ところがその予定が崩れる出来事がおきました。わかりますね」

「俺がスキルを売ったことによって、『聖剣の担い手』がアーサー様の元にきて、選定の聖剣『カリバーン』を抜いたことですよね」



 俺の言葉にアーサー様は満足そうにうなづいた。予想はしていたが、俺のスキルでの取引で、国の未来まで変わってしまったのか……そのことに俺はゾッとする。

 言いようのない不安に襲われた俺の手を誰かがそっと握ってくれた。暖かい体温にすこし、心が落ち着くのがわかる。エレインさんだ。



「セイン君は何も悪くないさ、君はただ依頼を受けただけなんだから」

「エレインさん……ありがとうございます」

「そうですね、私があなたのスキルを利用しただけなのでお気になさらないでください。私が聖剣をぬいたことによって、私自体に発言権が生まれました。彼らは今まで私の性別を黙っていることを条件に操ろうとしていたようですが、聖剣を抜いていれば国を治めるのは女王でも構わないと思っている人間が多数と調査の結果が出ています。それもあり、継承の儀式のときに私は自分の性別を明かそうと思います。そうすれば、もう、私が女王になるのを誰も止める事は出来ないでしょう。だからこそ、彼らは継承の儀式を止めるために何らかの手段を使ってくるでしょうね。反乱分子は結構処刑させてもらったのですが、まだまだいたようです」



 そう言うと彼女は大きくため息をついた。処刑ってあっさり言っているが、どれだけの人が犠牲になったのだろうか? さすがに政治の事はわからないし、あまりつっ込まないほうがいい気がする。



「その反乱分子の手札がモードレットという事でしょうか?」

「はい。そうです。それで、セインさんに聞きたいのですが、モードレットが聖剣を持つことはできるでしょうか?」

「ええ、あいつのユニークスキルなら可能です。あいつのスキルは『反逆者』はいくつか条件がありますが、一回だけ、他人のスキルを奪う事ができるスキルです」

「あれ、彼のユニークスキルは剣聖じゃなかったのかな? 冒険者ギルドでは『剣聖』持ちのルーキーが現れたっていうのを聞いたことがあるんだが……」

「ああ、それはモードレットが連れてきた人間から買い取って売ったんです。今考えるとその売った人間も、国の関係者だったのかもしれないですね……」



 あの時は冒険者を始めたばかりだったこともあり、レアなユニークスキルをあっさり売る人もいるんだなと思ったが、今思えば、誰かの命令でモードレットに売ったのだろう。彼が王家の血を引いているならば、何かの時に利用するためにいい顔をしようとする人がいてもおかしくはない。



「理不尽に王家を追放された王家の血を引く人間が、偽りの力で選定の聖剣を手に入れた悪しき女王から王の座を奪還する。まるで英雄譚のようで民衆受けがよさそうですよね。私の役割が悪しき女王で、モードレットを追放させた方々と、成り上がらせようとしている方々が同じでなければ私も喝采するでしょう」


 そう言うとアーサー様は苦笑する。彼女の言う通りできすぎた英雄譚だ。何も知らなかったらモードレットを応援してしまうかもしれない。だけど、俺は知っている。モードレットという人間を……そして、幽霊屋敷での出来事を……確かにあそこにいたのはレイスだ。だけど……あんな風に利用するだけ利用するような奴らが国を支配したらどうなるだろう。



「それで……これから対策を考えようと思うのですが、エレインとセインさんにもお力を借りたいのですが、どうでしょうか?」

「もちろん、私は力を貸すとも。アーサーは私が守るさ」



「俺も力になれればと思います。そして、モードレットのスキルに対抗する手段もあります。俺を信用してもらうのが条件になりますが……」

「素敵ですね、聞かせてもらえますか?」



 そうして俺達は今後について話し合うのであった。


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