第23話 モードレットの反撃2
「エレイン……その蒼い髪に、腰の聖剣『蒼の剣姫』か!! なぜ、Sランク冒険者がセインなんかと!!」
突然乱入してきたエレインさんに驚愕していたモードレットだったが、特徴的な外見とその強さで正体を察したようだ。心なしか構えている剣から戦意が失われている気がする。
「彼は私の恩人であり、先輩なんだよ。そういう君は……セイン君の元パーティーメンバーだね。大方セイン君がどれだけ大事だったか気づいて連れ戻しに来た感じかな? そういうのは個人の自由だけどさ、武器を使って脅迫って言うのはだめじゃないかな?」
エレインさんの子供に諭すような言葉に、図星をつかれたモードレットが悔しそうに顔を歪める。さすがにSランク冒険者相手に喧嘩を売るつもりはないのだろう。剣を下げた。ザインに至っては状況についていけないのか、信じられないとばかりにエレインさんを見つめているだけだ。というか安心したからか、背後にいたガレスちゃんが俺に寄りかかってきたせいで胸があたってやばいし、なんかいい匂いがする。油断しすぎかもしれないが、エレインさんが来た時点で俺達に危険はないため緊張の糸が切れてしまった。
「先輩……? ああ、つまり、あの宿屋の女がエレイン殿を雇っているという事ですね、ならば、俺はその倍のお金を払います!! だから俺のパーティーに入ってくれませんか、ちょうど不幸な事故によってパーティーメンバーが減ったんです。あなたにとっても、悪い話じゃないはずだ」
「おやおや、君はセイン君を誘いに来たんじゃないのかな?」
「ええ、そうです。あなたの力とセインのスキルがあれば俺達はAランクどころかSランクだって夢じゃなくなるはずだ。なあ、セイン、Sランクになれば、もっと金が稼げるぞ!! だいたいSランク冒険者とと交流があるなんて隠すのは卑怯だろう」
そう言ってモードレットは狂信的な光を目に宿して夢を語る。ああ、確かにエレインさんがパーティーに入ればAランク何て余裕だろう。こいつの言うようにいずれかSランクもいけるかもしれない。だけどさ、それは夢なんだよ。叶わない夢なんだ。現にエレインさんは呆れたとばかりに溜息をつく。
「いくらなんでも節操がなさすぎるんじゃないかな? 君がやるべきことは追放したセイン君や、迷惑をかけたガレスちゃんに謝る事だと思うけど……それにね、私はもう冒険者をやめたんだよ」
「冒険者をやめる……? それだけの力を持ちながら? つまらない嘘はやめてください、二人に謝れというなら謝りましょう。だから俺のパーティーに入ってください。セインとあなたが入れば俺達は最強になれるはずなんだ」
「悪いね……それはできない、私はセイン君を利用して捨てた君を信用できそうにないし、何よりも、私は冒険者をやめたんだよ。そして、素敵なお嫁さんになるのさ」
「何を言っているんですか!! そんなくだらない事のために、あなたは冒険者をやめるっていうのか!! それだけの力を持っているというのに!!」
「くだらないか……ふふ、やはり君とは何があっても組むことはなさそうだよ」
モードレットの言葉にエレインさんの顔が悲しみに染まる。あいつはくだらないっていってけどさ、エレインさんにとっては大事な事なんだよ。それをこいつは!!
「モードレット、夢を語るお前がエレインさんの夢を笑うのかよ」
「うるさいぞ、セイン、邪魔をするんじゃない!!」
俺がモードレットに突っかかろうとするのをエレインさんが優しい笑みを浮かべながら止めた。
「いいんだよ、セイン君、怒ってくれてありがとう。でもね、ここは私にやらせてくれないかな? 私もね、大事な友達を侮辱されて怒っているんだ。君はガレスちゃんを守ってあげてくれ。さあ、モードレット君どうする? 私と戦うつもりかい。次に剣を構えたら私は躊躇なく君を襲うよ」
そう言ってエレインさんはモードレットを挑発するように笑いかけて、さやに納まったままの聖剣を構える。だが、先ほどとは違いモードレットはエレインを馬鹿にしたように見つめる。
「そうか……残念ですが、交渉は決裂の様ですね。なめるなよ!! 俺のもう一つのスキルを使えばSランク冒険者だって……がはぁ」
モードレットがそう言って、剣を構えた瞬間だった。エレインさんの姿が掻き消えると同時に見えたのは、鞘の入った聖剣を下から上に振り上げたエレインさんと顎を打ち抜けれて、放物線を描いて吹っ飛ばされるモードレットだった。そしてその数秒後にグシャっと音を立てて頭からモードレットが落下した。
「…………」
あまりの圧倒的な状況に誰も言葉を発せなくなる。一番最初に動いたのはザインだった。
「ひぃぃぃ、化け物だぁぁぁぁ!!」
あいつは情けない悲鳴をあげながらモードレットを回収する事すらなく逃げ出してしまった。まあ、この惨状をみたのだ、あいつが歯向かってくることはないだろう。俺がエレインさんにお礼を言おうとするとなぜか彼女は顔を真っ青にしていた。
「ねえ、セイン君……かれ、死んでないよね。いや、なんか奥の手ありそうだったし、警告したけど武器を構えたから本気でやっちゃったんだけど、こんなに弱いと思わなくて……」
「あー、生きてますよ。さすがは腐ってもBランク冒険者ですね」
ガレスちゃんの一言でエレインさんが安堵の吐息をもらす。いや、スキルで強化した俺と互角かそれ以上の相手なんだけど……この人強すぎないか?
「でも、さすがエレインさんですね、俺だけだったらどうなっていたかわかりませんでした」
「ふふ、家事を教えてもらっているんだ。これくらいはしないとね。でもさ。私も女の子だからね、君が私のために怒ってくれたのはうれしかったよ」
俺をみてエレインさんがそういって笑ってくれた。その笑みは本当に嬉しそうで、俺のしたことは無駄じゃなかったんだなとこちらまで嬉しくなる。そうして、俺達がほっと一息をついた瞬間だった。
「お前ら!! 抵抗するな!! 俺に逆らったらこの女がどうなるかわかっているのだろうな。」
声の方を振り向くとザインが一人の少女の首元にナイフをつきつけて、自分の前に突き出していた。その少女とは馬車を返しに行っていたベルだった。
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